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箱の中
毎日が窮屈で仕方ない。
そう感じるようになったのは、雷太からマーキングされたその日の夕方からだった。
雷太の力強い腕に抱かれながらマーキングされ、生まれて初めて味わう幸福感に包まれた。それも束の間、雪はその日のうちに他の草食生徒達からあからさまに避けられるようになってしまった。
特に小動物系である雪と同種の獣人達は、結束を組んで雪を排除しようと動き出した。
朝教室へ入れば机と椅子がない。
授業中のグループワークで仲間に入れてもらえない。
心の拠り所としている優也は、他の生徒達が独占し、ともかくちょっとした嫌がらせが続いているのである。
塵も積もればなんとやらで、この嫌がらせも積もり積もって、雪の怒りは爆発寸前である。
唯一気を抜いて優也に甘えることができる場所は、寮の中だけだった。
「雪、遅刻するよ」
「ん──……、行きたくない」
「まぁ確かに……。僕も雪の立場なら学校行きたくないってなるかも。首謀者がわかればガツンと言ってやれるんだけど……。僕があちこち引っ張られて連れていかれるのも雪に対する嫌がらせだと思うしね。きっと雪に対する妬みだろうとは思うけど」
「妬み?どういうこと」
雪がベッドの中からひょっこり顔を出す。長耳がピンと伸びていた。
裕也はその隣で制服に着替えながら雪に話しかける。
「山王会長のことを熱烈に支持しているファンの仕業じゃないかってこと」
「え……」
「だから、雪が山王会長にマーキングされたのが羨ましいんじゃないのかな」
「そっか……」
雪はベッドから身体をのそっと起こし、薄ら笑いを浮かべた。
「ざまあみやがれ、ははは」と雪が呟く姿を見て、優也が苦笑いする。
雷太は草食から恐れられている単なる肉食とは違うのだと、雪でもわかった。
声も身体も、雷太の全てに力強さを感じ、男の象徴にも力が漲っていた。それを知っているのは自分だけなのだと思うと、尚更鼻が高くなる。
けれど、寮を出て教室へ入れば、雪は嫌がらせのターゲットでしかない現実。
雪は再び布団を頭から被り、ベッドの中へ潜り込む。
「今日は合同朝会だよ。山王会長も壇上に上がるんじゃないかな。行こうよ」
「えー……でも……」
「もう!雪!あんな男らしくない軟弱な嫌がらせに屈してる場合じゃないよ!しっかりして!」
優也が雪を覆う布団に手をかけて、ばっと奪い取る。
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