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第91話

他の生徒達はとっくに中央棟へ移動済みで、外を歩いているのは当たり前だが雪一人だ。 優也が言う雷太のファンに雪が今までされてきたことは、気にするほどのことではない。 今度されたら大きな声で怒鳴ってやればいい。 女の腐ったみたいな奴!って。 そこまで考えて、女の人に失礼な言い草だと気付く。 女々しいことをするんじゃないと言い返そうかと考えて、めめしいという文字も、漢字に直すと女という文字を使うことに気付いた。しかも"女女しい"と2回も。 女という漢字は侮蔑的な言葉によく使われるのかと、自分の置かれた立場とはあまり関係のないことを考えながら、気付くと目の前はもう中央棟だった。 途中で講堂に入るのは結構勇気がいる。 講堂の扉を開けると、外からの光が差し込んでどうしても注目を浴びるからだ。 「仕方ない。遅刻した俺が悪い……」 足元を見ながら小さく呟き顔を上げると、隣に誰かが立っていた。 雷太とは全く違う匂いだが、一目で肉食の生徒だとわかる。 バランスのよい長身の体躯。赤い単髪に、整ってはいるが意地の悪そうな顔立ちをしている。 耳には金銀交えてピアスが何個も嵌めてある。 「黒兎ちゃんも遅刻かよ」 「……なんだよ慣れ慣れしいな。黒兎ちゃんって……」 「あー、わりい。初対面だっけー?って言っても黒兎ちゃんは有名人だからな。こっちで黒兎ちゃんを知らない奴はいないんだわ」 「はあ……?っていうか、あんた誰」 どこからどう見ても胡散臭い。 初対面であることは間違いない。雪は初めて見る生徒だ。 「俺は肉食組3年の、鬣犬。よろしくな、黒兎ちゃん」 「え……先輩だったのか……」 「先輩とか後輩とか、そういうのはあんまり興味ねぇし黒兎ちゃんも気にすんな」 鬣犬と名乗った赤髪の男は雪に向かって手を伸ばしてきた。 浅黒い肌をしたその手には指輪が嵌められている。 シルバーに光るスカルのデザインの指輪だった。趣味が悪い上、これで殴られたら痛そうだと、雪の中では凶器として認定された。 「よ、よろしく」 ここは大人しく握手されるほうが賢明だ。 内心びくびく怯えながら差し出された雪の白い細い手を、鬣犬ががっちり掴む。 鬣犬はそのままその手をぐいっと引っ張って、雪を腕の中に収めた。 「っ!何すんだよっ」

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