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第96話
雷太の発言で雪の平和な日常が戻ってきた。
しかしそれはきっと雷太が怖いから、表面上は何事もなかったかのように振る舞われているだけに過ぎない。
本当は自分に嫌悪感を抱いている草食の生徒は恐らく沢山いるだろう。
そう考えると以前のように明るく快活な自分に戻ることは難しい。
雪は寮の部屋でじっとしていることが増えた。
この日も部屋のベッドに寝転がり、雪はぼうっと窓の外を眺めていた。
雪の心を映しているかのような黒い雲が空一面に広がり、ポツポツと音を立てて雨が降っている。
そういえば雷太はネコ科だったっけ、と、雨が苦手といわれる猫を想像し、そこから雷太の姿を連想させ頭の中に思い浮かべる。
「濡れてもきっとカッコいいんだろうなぁ……」
「連絡してみたら?」
優也の声ではたと気付いた。
「俺、声に出してた?」
「うん。山王会長のことを考えていたんでしょ?」
「あー……、その、明日が運動会なのに雨だし、生徒会役員は忙しいのかなぁなんて……」
苦し紛れに独り言の言い訳を絞り出す。
絞り出したところで何も納得できるような理由は見当たらないのだけれど。
雪の言うとおり、明日は待ちに待った体育祭だ。
昨年参加出来なかったことが雪の中では大きなマイナス要素となり、再び同じことが起きたらどうしようと不安に襲われる。
雷太との関係や、明日のこと。
雪はベッドで寝転びながらナーバスになる気持ちを落ち着かせようと目を閉じる。
「内線電話かけてみたら?僕ちょっと娯楽室行ってくるから。お笑いグランプリ見たいんだ。じゃあね」
「そうなんだ。いってらっしゃい」
優也は言うや否やすぐに部屋を出ていってしまった。
雷太に連絡を取るのなら今だよ、と言わんばかりのタイミングで出ていったのは偶然だろうか。
優也に感謝すると同時に、内線電話で雷太と話をするという発想に至らなかった自分を叱ってやりたい。
雪の視線が内線電話とその脇にある出窓の辺りを行ったり来たりする。
どうしよう。雷太と話したい。できれば会って話したい。それが無理なら声だけでも……。
「って、俺どんだけ雷太のこと好きなんだよぉ……。あ……」
口に出して初めてそうなんだと確信する。
本当はもっと、ずっと前から気付いていた筈だ。
けれど、自分が傷つくのが怖いから、見て見ぬ振りをし、心の奥底にその気持ちを封じ込めた筈だった。
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