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第97話

けれど一度自覚してしまえば、その気持ちはどんどん溢れ出し、止めようにもその勢いを押さえることは到底できない。 それが恋というものだ。 雪はベッドから体を起こし内線電話のベル型をした受話器を手に取った。 長耳の根元にスピーカーを押し当てて、備え付けである壁掛け電話の通話口から声を伝える。 「もしもし、肉食組の山王君に繋いでください」 電話交換に申し入れ、雷太の部屋に繋いでもらう。 少し待ったが、雷太は電話に出てくれた。 「あの、俺」 「なんだ、オレオレ詐欺か?」 「ちっ、違うっ!俺!黒兎雪!」 雪が焦ってそう返すと、受話器の向こうで雷太がくすくすと笑っているのが聞こえた。 「わかっている。雪、変わりないか?」 「うん……変わりないよ」 「電話をくれるのは初めてだな。ありがとう」 「うん……」 こうして雷太の穏やかな声を聞いているだけで胸が詰まる。 これまで我慢してきたクラスメイトからの嫌がらせのことや、雷太と結んだ仮の恋人という関係のこと。昨年出ることのできなかった体育祭のこと。 雪を押し潰そうとして襲いかかった様々なことが一気に押し寄せ、雪は声を震わせた。 「なんだ、泣いているのか」 「……っ、ちがっ、ちがうっ、……ぅぅっ、」 涙と一緒に、時折しゃくりあげる声まで漏れる。 きっと雷太には全部聞こえているのだろう。 「明日は体育祭だな。晴れるといいが」 「……ん、うんっ、っく」 雷太の声が雪の琴線に触れ、我慢の箍が外れてしまった。 何を言われても涙が溢れ、声がまともな言葉にならない。 「らい、た……会いたい……」 辛うじて言えたのは、叶わないことだけだった。 寮を出ていい時刻はとっくに過ぎている。 あと少しで消灯時間だ。 こんな時にこんな我が儘しか言えない自分を雷太はどう思うだろうか。 「雪……」 「う、嘘。嘘、だから。ごめん。っ、明日、楽しみにしてる……」 声を聞けば聞くほど、自分は弱くなる。 そう感じた雪は、電話を切ろうと耳から受話器を遠ざけた。 「会おう、雪」 だが、雷太の声が受話器から聞こえ、再び耳に押し当てる。 「え……?」 「今迎えに行く。とは言っても俺の力じゃ連れ出すことはできないが……。窓を開けておいてくれないか?うちの烏合に頼んで連れ出してもらう」 「そんなこと……できるのか?」 雷太はきっと本気だ。

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