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第98話

雷太は雪を本気で連れ出そうとしている。 「雪が嫌じゃなければだが……嫌か?」 「そんな……嫌じゃない、全然嫌じゃないよ雷太」 驚きと喜びで、雪の涙がみるみるうちに乾いていく。 なんて現金な性格だろうと思う。 けれど、やっぱり雷太に会いたい。 雪は娯楽室にいる優也にこっそり事情を説明し部屋へ戻り、雷太の指示通り窓を開けた。 肌寒さに体がぶるっと震える。 雪は雨の降る暗い林を眺めながら、娯楽室で優也に言われた言葉を思い出し、一人顔を赤面させた。 「外泊してもいいよだなんて……、それはないだろ……ないよな、うん」 外泊という響きにニヤニヤしていると、バサッバサッと鳥の羽ばたく音が聞こえ、雪は暗闇の中に目を凝らす。 「わ……すげぇっ……!」 雪は目を見張り感嘆の声を上げた。 目の前に、肉食組生徒会副会長の烏合がいる。 真っ黒で艶やかな、大きな翼を羽ばたかせ、宙を飛んでいた。 普段は目にしない、鳥類を始祖に持つ獣人の特異性。 雪は驚きと興奮を隠せない。 「黒兎さん、お迎えに上がりました。外は寒いです。俺が抱くんで雨はあまり当たらないと思いますが何か羽織ってください」 「うん、わかった」 雪は椅子の背凭れにかけてあった白いカーディガンを部屋着の上から手早く羽織る。 雨に濡れている烏合は迫力があって恰好いいけれど、濡れている姿は可哀想だ。 雪は烏合に指示されるがまま窓の淵に足をかけ烏合の首に腕を回し、体を預けた。 「ごめん、重いよな?」 「全然軽いです。じゃあ行きますよ」 烏合が窓を外から閉めて、雪を抱いたまま壁を蹴り上げ宙に舞う。 ふわっと、内臓が浮き上がる感覚がして、烏合にぎゅっとしがみついた。 「怖いですか?でも目を開けて見てください。空からの眺めは最高ですから。って、こんな雨じゃあまりよく見えないですよね」 そう言って烏合が笑う。 烏合の体と大きな羽にカバーされ、雨は殆ど当たらない。 雪は烏合に感謝し、言われた通りに瞼を開いた。 「うわ……」 上空から見下ろした学園は、林に囲まれ、草食棟、肉食棟、中央棟、そしてそれぞれの寮である緑青と東雲がなんだか小さく見える。 建物を覆う林と、広いグラウンドが余計に小さく見せているのだと思った。 こんな小さな箱の中で暮らしている自分がちっぽけに思える。 「俺の悩みなんて大したことじゃないのかな……」 「俺も、空を飛ぶとそんな気持ちになります」

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