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第99話
「うん、そうだな」
景色を眺めていると東雲の屋根がどんどん近くに見えてきた。
それぞれの部屋の窓から明かりが漏れている。
烏合はその中の窓が少し開いている部屋を目がけて飛んでいく。
結構なスピードで飛んでいくので、到着した時は壁に激突するんじゃないかと思った。
しかし烏合は途中でスピードを緩め、雷太の部屋と思しき窓の前で進行を止める。
「雪……!」
「雷太!」
出窓から雷太が顔を出し、雪に向かって腕を伸ばす。
烏合は雪をひょいと持ち上げ、出窓の上にそっと乗せた。
烏合の手が離れた瞬間、雪はぴょんと足を蹴り、会いたくて止まなかった雷太の胸に向かって飛び込んだ。
「雪、濡れてないか」
「平気だ。それより烏合がびしょびしょ」
雪は一旦雷太から離れると烏合の方へ身体を向ける。
こんな寒い雨の夜に規則まで破ってびしょ濡れになりながら、自分を雷太に会わせてくれたことには感謝しかない。
「すまないな烏合。引き受けてくれてありがとう」
「いえいえ、黒兎さんだったから俺も役得っていうか。やっぱり黒兎さん可愛いっすよね」
どうしてこのタイミングで褒められているのか雪は首を傾げる。
しかも褒められているのだかよくわからない。
しかし烏合に連れられてきたからこそ雷太に会えた。
「どうもありがとう烏合。空からの景色、最高だった。烏合も何か困ったことがあったら俺を頼ってくれ。それから、ちゃんと身体拭いて暖かくしろよ!風邪ひくぞ!って俺が言えた義理じゃないんだけど……。でも、ほんと、ありがと」
「いえいえ」
烏合は笑って、その後自分の部屋へと戻って行った。
初めて訪れた雷太の部屋。
当たり前だが2人部屋である。雪と優也同様に、雷太にも同室者がいるわけで、その存在がここにないのが気になった。
「同室の人は……?」
「同室は蛇塚というやつなんだが、今夜は別の部屋に泊まるそうだ」
「え……。そんなことできるのか」
「そういう雪だって、ここにきてるじゃないか」
「そうだけど……」
まさか自分が原因で蛇塚が部屋から出て行ったのではないだろうかと不安になる。
しかしよくよく話しを聞いてみると、どうやら緑青よりも東雲の方が規則が緩いことがわかった。
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