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第100話
夜行性の獣人が多いというのがその理由らしい。
だから夜間に外を出歩く者がいても、皆見て見ないふりをするのだという。
教師もまた然り、皆、肉食の生徒達は夜間の外出について黙認されているのだ。
ここにいない蛇塚も雪がここへ来たから遠慮していなくなったというわけではなさそうだった。
雪は話しを聞いて「そうなんだ」と呟き、2つあるうちの大きなベッドの方へ腰かけた。
「羊ケ丘に連絡を入れようか」
「なんて?」
「今夜はここに泊まるって。この時間だし、また緑青に戻るのも誰かの手を借りなければならないだろう。だったらここに泊まって明日の朝、食堂まで一緒に行ってそこで別れればいい。蛇塚もちょうどいないことだし」
「いいの……?」
「あぁ、もちろん。何か話しがあったんだろう。電話を寄越すなんて初めてだったし、……それに雪は泣いていた。放ってはおけない」
「それは……」
黙って俯く雪の隣に雷太がそっと腰掛けた。
雪は烏合に見せてもらった上空からの景色を思い出し、全てを雷太に打ち明けることも大したことじゃないのだと自分に言い聞かせる。
「雷太、俺がいじめられてるの知ってたんだよな。だからこの間の朝会であんなこと……。俺のこと庇ってくれてありがとう。あんなに真面目に俺のこと考えてくれて、空気がぴりぴりするくらい雷太も緊張したんだろ。結果的には雷太のオーラに圧倒されて、俺に嫌がらせしてた奴らは大人しくなったんだけど。それには感謝してる」
「いや、それは……。仮にも恋人なんだから当然のことをしたまでだ。好きな人を守るというのも男の役目だと思うし、強いて言うならば義務だとも思う」
「はは、男らしいな。じゃあ俺も雷太のこと守らなくちゃ。仮の恋人として……」
そこまで言って雪の大きな瞳から、ぼろっと大粒の涙が零れ落ちる。
まさか自分がここでまた泣いてしまうとは。
想定外のことが起き、雪は狼狽えた。
慌てて瞼を手の甲で擦るも、涙はまた、ぼろぼろと零れ落ちる。
「雪……?何があったんだ。ちゃんと言ってくれ。言ってくれなきゃわからない」
仮の恋人という言葉そのものからダメージを受ける雪と、対照的にその言葉をすんなりと受け止めているかのような雷太。
自分と雷太では気持ちの根底にずれがあるのだと感じてしまう。
やはり自分は仮でしかないのだ。
この想いを伝えたい。
けれど伝えたらきっと終わってしまう。
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