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第104話
「ありがとうだなんて、俺は別に何もしてないし……。むしろこっちの我が儘に付き合ってくれてありがと……」
照れた様子で雷太から目を逸らしながら雪が言った。
照れているだけなのか、いつもはもっと自分の目を見詰めてくれるのに。
雪の様子がどこかよそよそしいのが気になった。
それもよくよく考えればどうしてなのか想像はつく。
雷太は雪に口淫を施し、その口に雪からのマーキングを受けた。雪もまた同様に、直接口に含んで雷太の精を取り込んだ。
いくらなんでも好きでなければ互いにできる行為ではない。
雪はもう自分を怖がったりしていないのではないかとすら思えた。
性的な目で見られることに対する嫌悪も、自分には抱かずにいてくれているのではないかとも。
それがただの思い上がりじゃないという確証はどこにもないのが辛いところだ。
ただ一つ、望みがあるとすれば、自分を好きと呟いた雪の寝言だけ。
気高く、可憐で、美しい。
可愛らしい外見とは裏腹なやんちゃぶりも魅力的だと思う。
こんな同性に、今まで出会ったことがない。
初対面が肉食組の生徒に追い回されて怯えていたところだったのがただひとつマイナス要素となったしまったが。
だが、まだ挽回するチャンスはある。
この体育祭で雪が納得のいく活躍ができたなら。
その時には仮の恋人から、真の恋人に、格上げしてもらえるよう申し入れるつもりだ。
それとは別に今日は雪から目を離すことのできない
事情がある。
烏合が耳にした、鬣犬のグループが雪を慰みの対象として狙っている件だ。
今日という一日が無事に終わるまで、雪への想いは一時保留ということになる。
自分のことよりも雪には今日を昨年の分まで思う存分楽しんでもらいたいのだ。
「雪、草食組には負けないぞ。お互い頑張ろうな」
「こっちだって負けない。……負けないし、体育祭が終わったら、俺、お前に話したいことがある」
「ん?なんだ?……まさか、また町へ下りたいとか、そんな話しか?」
「内緒」
雪は雷太をちらりと見遣り、すぐにさっと目を逸らす。
その仕草に不安を感じて、雷太は思わず手を伸ばした。
「っ、なにっ」
強引とも思える力強さで、雪の小さな顎を掬う。
雪が反論する隙を与えずに、雷太は雪の唇を奪った。
「んっ……」
ささやかな雪の抵抗を手で封じ込め、唇の隙間から舌を差し込む。
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