111 / 161

体育祭2

100メートル走で注目を浴びた雪だが、出場する個人種目全てが雪の独壇場だった。 今ジャンプすれば、雲まで手か届きそうな勢いだ。 誰にも負けない走りを大勢の前で見せつける。 楽しい!なんて楽しいんだろう! 雪は入学してから今日まで、今、この日が一番楽しく、有意義に過ごせていると感じていた。 「雪!また1位獲ったの!?すごいね!」 「まぁまぁ落ち着けよ、大したことないって、へへ」 テント下へ戻ってくる雪を、優也を始めとするクラスメイト達に出迎えられて、雪は終始頬が緩みっぱなしでご機嫌だ。 ただ個人で成果を上げるだけでなく、草食組にどんどん点が加算され、それに自分が大いに貢献しているのかと思うと非常に気分がいい。 こんなに楽しい行事にどうして去年は参加出来なかったのか、とても悔やまれる。 「優也は何に出るんだ」 「僕ね、借り物とパン食い競争。ひたすら走るよりこっちの方がまだましというか」 「そっか。でもまぁ、それぞれ向き不向きがあるもんな。俺は借り物競争とかテンパっちゃうタイプだよ」 「確かに、雪慌てそう」 雪と優也が顔を見合せ、ふふふと笑う。 すると、次の競技にに出場する選手を召集するアナウンスが流れ、優也が立ち上がった。 「あ、次借り物だ。じゃあ行ってくるね」 「うん。がんばれよ!」 優也の細身で頼りない背中を見送って、雪は応援側に回る。 優也が一番よく見えるであろう位置まで移動することにした。 雪が動くと、背後で誰かが一緒に動く。 鈍い雪でもおかしな気配を察知して、顔をしかめた。 誰かが自分を監視し、しかも尾行している。 ばっと勢いよく後ろを振り向くと、確かにそこには数名の生徒がいるのだが、その中の誰が雪の後を追っているのか確定できない。 「はー……何なんだよ。まぁ邪魔されないだけいいか」 それが誰なのかを特定するよりも、雪は優也の応援を優先させた。 よく見える第一コーナーの借り物メモが置いてあるところまで移動して、雪は声を張り上げた。 「優也ーっ!がんばれーっ!」 雪がぴょんぴょんと跳ね上がる度、耳がふさふさと揺れる。 その姿を優也はすぐに見つけ、雪に向かって控え目に手を振った。 第一レースがスタートする。 俊足の選手は殆どおらず、雪から見れば本気で走っているのかと疑いたくなるレースだった。 しかし借り物競争の醍醐味はそこではない。

ともだちにシェアしよう!