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第112話

メモのところまで走ってきた選出達が、次々に折り畳んであるメモを広げる。 「どんぐり!!どんぐり誰か持ってきて!!」 狐の尻尾をふさふささせた生徒が叫ぶ。 すると友人だろうか、口の中でモゴモゴさせていたものを吐き出して、狐の生徒へ「受け取れ!」と投げ付けた。 「お!どんぐり!って、なんかべとべとする!」 「ほっぺに入れてたやつだから。ごめんな」 「きったね~っ」 そう言いながら狐の生徒がゴールへ向かって走っていく。 周りの生徒たちは笑いながら応援する。 「なんだこれ、面白いっ」 雪のわくわくも止まらない。 その後も靴や、メガネ、上級生のジャージなど、ちょっと借りにくい物もあって見ている方は終始笑いっぱなしだった。 そのうち優也の番が回ってきた。 雪は大きな声で優也を応援する。 「行け行けーっ優也ーっ!」 スタートの合図で優也達が走り出す。 優也は3位で紙を拾い上げ、目当てのものを探して辺りをきょろきょろと見回している。 すぐに見付けたのか、目標物へと走り出す。 優也は来賓席の近くに座る教頭の鶴野の所へ行き、手を合わせて何かを頼んでいる。 その後、立ち上がった鶴野と手を繋いでゴールを目指した。 実況と応援の放送と共に、優也は見事1位でゴールし、放送担当の生徒からマイクを向けられる。 「1位おめでとうございます!借り物メモの中には何と書いてあったのでしょうか?……光るものと書かれています!」 マイクを向けられた優也は悪びれることなく答えた。 「はい。鶴野教頭先生の頭が眩しく光っていたのでご一緒してもらいました。教頭先生ご協力ありがとうございました」 これには鶴野教頭も苦笑いして頭を掻く他ない。 優也の活躍はこの日一番の笑いを誘った。 大いに盛り上がった借り物競争のあとは昼休みとなる。 雪は優也のレースで大笑いし、笑いすぎて痛くなった腹筋をさすりながらテント下へと戻ろうとした。 その時後ろから、誰かにぽんと肩を叩かれ立ち止まる。 「黒兎さん、すみません」 「……なんだよ、このストーカー」 自分を尾行していたのは牛島だったのかと、雪は溜息をついた。 「っ、ストーカー?……すみません」 雪の一言にダメージを受けた様子で牛島が少し項垂れる。 ただ、後ろからつけられていただけで実害はなかった為、雪もこれ以上牛島を責める気にはならなかった。 「何?」

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