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第113話

「後ろからつけていたことは、謝ります。すみません。あの、午後の団体競技っすけど、2年生の棒倒し、黒兎さんも参加するんすか」 「うん、出るつもりだけど」 何故そんなことを聞くのだろう。 団体競技は基本的に全員参加だ。 雪は体調が悪いわけでも、怪我をしているわけでもない。むしろ絶好調。 だったら出場するのが当たり前ではないのだろうか。 牛島が意を決したようにぱっと顔を上げて口を開く。 「はっきり言って、黒兎さんは足手まといになると思います。出場するのを止めてもらえませんか」 「なっ」 牛島の言い草にカチンときた。 何故これまで草食組に貢献してきた自分がそんな風に言われなくてはならないのか。 「昨年のビデオを見ました。この競技は危険っす。積極的に前に出るのは体のしっかりした人達ばかりで、黒兎さんのような小柄な人達は何人か医務室に運ばれてます。だから……。要は俺、黒兎さんのことが心配なんす」 「……」 雪はむっとしたものの反論せずにいた。 牛島の深刻そうな表情が、本気で雪を心配しているのだと物語っているからだ。 善意で言ってくれているとわかるから無下にすることもできない。 「でも、俺なら平気だ。棒を押さえる土台役は無理だけどその上を走って棒を倒しに行く方だったら、余裕でできるぞ。牛島がそんなに心配することじゃない。でも、心配してくれてありがとな」 雪は牛島の茶色い髪に手をやって、見た目よりも柔らかい頭を撫でてやる。 自分は見た目よりも頑丈なのだ。 だから少しでも牛島が安心できるといいのに。 そう、掌から伝わるように。 何度か頭を撫でられて牛島が困った顔をしながらゆっくりと頭を上げた。 「わかりました。でも無理は禁物っす。危なくなったら引いてください。それから、実は黒兎さんをこうして見守らせてもらってるのは、自分の独断ではないんす。会長からの指示で」 「象山が?」 どうしてこんなことをする必要があるのだろう。 雪は妙な胸騒ぎを覚え、じっと牛島を見詰める。 自分のような生徒は山ほどいるというのに、どうして自分にだけ牛島に見張らせるような真似をするのか。 「はい。理由はちょっと教えてもらえなかったんすけど、何か特別な理由があるんじゃないかって。本当は黒兎さんに声をかけるつもりもなかったんすけど、黒兎さん本人が知っていることで回避できることも必ずあります。だから、十分に気を付けてくださいね」

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