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第114話

「うん。何もないと思うけど、わかった。多分前に俺が肉食組の奴らに追い回されたことがあるから、今回も同じような面倒事を起こしたら困るからかもしれないな」 (うん、きっとそうだ) 雪は自分で言って納得する。 思い当たるのはこれぐらいだし、それしか考えられなかった。 「そうっすね。俺もそう思います」 「って言っても俺の後ろに牛島はずっといるんだろ。だったら俺も安心だな」 雪の言葉を受けて堀の深い牛島の顔がわずかに赤らんだ。 こんな可愛らしい後輩の一面を見せられては冷たくあしらうこともできない。 雪は牛島が後ろにいることを容認しテントへと戻った。 そこで優也と合流し、混み合う購買で昼食となるレタスとチーズのサンドイッチとミネストローネを買い、再びテントへ戻って食べた。 「ん~、今日もレタスがシャキシャキで美味かった」 雪は指に付いたパンくずをぺろりと舐めて満足そうに微笑む。 その隣で優也は浮かない顔をしながらパックの牛乳をストローで飲んでいる。 いつもと違う重い空気、暗い顔。雪ですら気付き、優也の顔を覗き見る。 「どうしたんだよ優也。そんなにその牛乳まずいの?俺のスープと交換するか」 「いい。大丈夫」 「でもその顔が大丈夫じゃなさそうだよ。腹でも痛いのか?」 「違うってば!!」 優也が珍しく苛立ちの声を上げる。 雪は驚き、一瞬びくっと肩を強張らせた。長耳までもピンと立ちあがる。 「あ、ごめん。雪のこと怖がらせちゃった……」 「いや、別に。優也のこと怖いと思ったことねぇし」 そう言った割に、雪のおどおどした態度が痛々しい。 雪は驚きで跳ね上がった長耳を両手でぐっと下に下げた。自分は緊張していないと、自分に言い聞かせるためだ。 雪の様子を見て優也が重い口を開いた。 「実は午後一でやる二人三脚、僕とやりたいって先輩同士が揉めてて。その間に挟まれるのがうんざりっていうか、もうさぼってもいいかなって……」 「え。まだ解決してなかったのか」 「うん……」 以前優也が緑青の食堂で先輩に囲まれていたことを思い出す。 あの時優也は二人三脚のお誘いだと雪に話した。 まだ諦められず、優也と走りたい3年がいるということだ。 「ちゃんと断ったのか?」

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