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第115話
「もちろん。僕はその時近くにいた人とペアを組むからってちゃんと断ったんだ。なのに今日までしつこくて。さっきも『俺とやろう』って声かけられて。今まで楽しかったのに、急にテンション下がっちゃった。雪に八つ当たりしてごめんね」
「それはいいけど」
温和でいつも朗らかな優也がここまで落ち込み、苛立っているのを見ることはあまりない。どうにかして助けてあげたい。
落ち込む優也の隣で雪が頭を悩ませる。
2人揃って黙り込んでいると、再び後ろから牛島が現れ雪は声をかけられた。
「黒兎さん」
「ん?なんだよ、まだなんか用?」
「しつこくてすいません……。実は次の競技、俺も参加するのでしばらく離れます。黒兎さんはどなたかお友達と一緒に行動してください」
「あーはいはい。わかったわかった。……あ」
(こいつも優也と同じ競技に出るのか)
牛島が競技中に離れようが離れまいが、雪には全く関係ないと思った。
そんなこといちいち言わなくていいから、勝手に行けよとまで思う。
しかし、あれ、と気付き思い立つ。
そうだ、牛島に頼めばいいんじゃないかと。
「どうかしましたか」
「やだ。俺天才!」
「え?雪が天才?何の話し?」
何のことだと首を捻る2人の間で雪はぐふふと満足げに笑う。
「優也さ牛島と二人三脚出ればいいじゃん。牛島は変な下心もないだろうし、脚早いしパワーもあるし。適任すぎる!」
事情が呑み込めない牛島と、なるほどねと手を打つ優也。
優也はその提案にすぐ飛びついた。
その後優也の説明で牛島も大体のことを把握し、一緒に走ることを約束した。
「じゃあよろしくね牛島君」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
雪を挟んで2人が握手を交わす。雪は非常にいいことをした気分だった。
体育祭は午後の部を迎え、雪は二人三脚に出場する優也と牛島を見送った。
優也の顔がおっとりとしたいつもの表情に戻り、ほっと一安心だ。
一人で行動するなと牛島に言われたけれど、何か起こるとも思えず、雪はテントから一人、優也達を観戦できるベストポジションを探して移動を開始する。
コース内、第一コーナーの先が直線になっていてそのすぐ脇が林になっている。
人気の少ない場所ではあるが、走者側からはよく見える場所だ。
雪はそこで応援してやろうと、その場所まで駆けて行き、優也と牛島の番が訪れるのを待った。
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