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第116話
レースが始まり、スタートの合図で選手達が紐を足首に巻き付ける。
手早く結び終えるペアもいれば、もたもたと紐が結べずいつまでもスタートできないペアもいて、雪はまたくすくす笑いながら観戦する。
選手達が直線のコースに入ると雪はぴょんぴょんと飛びながら声援を送った。
次々とレースは進む。
優也と牛島の番だ。遠目から見て、細い羊の角が優也、隣の長身が牛島とわかる。
優也の悩みは解消され、雪も一時的ではあるが牛島からの尾行から逃れられた。
こんな風に何事もうまい具合に運べばいいのに……と、不意に雷太を思い出す。
雷太は生徒会の仕事が忙しいようで、雪とすれ違うことすらない。
けれど、この後の棒倒しできっと顔を合わせるだろう。
その時は自分が棒を押し倒し雷太を驚かせてやるのだ。
雪の楽しみが大きく膨らみ尻尾の辺りがうずうずとして、雪は小さく腰を振った。
優也と牛島がスタートした。
2人が屈んで互いの足の側面をくっつける。そこへ紐を結んでいるのは優也だ。
優也はすぐに結び終え、牛島と肩を組み走り出す。
牛島のパワーで優也は肩を抱かれて運ばれているような二人三脚だ。
これには雪も腹を抱えて爆笑し、応援も忘れ、目尻に涙が滲むほど笑った。
優也と牛島が丁度目の前を通り過ぎて行ったその時、雪の背後で落ち葉を踏む音がして、長耳がピクンと反応する。
「……?」
雪が笑いの冷めない表情を残したまま振り返ると、そこには見慣れない生徒が立っていた。何かがあったのか、慌てている様子がうかがえた。
「黒兎さんですよね」
「そうだけど……」
突然名前を確認されて奇妙な感覚に襲われた。
しかし何が何だかわからない。どうして自分の名前が呼ばれているのか、そしてここにこの生徒がいる理由もわからない。
疑問符ばかりが頭に飛び交い、牛島の言葉を思い出したりもした。
気を付けてくださいねと、雪は牛島に言われたのだ。
だが、その忠告は後の一言でどこかへ吹っ飛んでしまう。
「山王会長が、棒の下敷きに……!」
「え……、雷太が?雷太がどうしたんだよ!!」
雪に声をかけてきたこの生徒は肉食組の生徒であり、雷太の恋人(仮)である自分を探してここまできたのだと判断した。
そしてこの生徒は雷太が棒の下敷きになったと言った。
雪の頭から血の気がサーッと引いていく。
雷太が大けがしたということなのだろうか。
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