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第120話

それは……、自分が本物の恋人ではないからだ。 雷太と自分の恋人という関係は偽りだ。 仮の恋人。 雪が押し黙る。 それを言えば、雷太の親切心を踏みにじることになり、自分の置かれている立場を改めて再認識しなくてはならなくなる。 自分が辛いだけならまだいいが、雷太のことを思うとそれは絶対口にはできない。 「あ、もしかして」 M字の刈込が、何かに気付いたように壁から跳ね返ってきたボールをキャッチして手を止めた。 「……?」 「ダミーとか?こういうことを防ぐためにマーキングだけしてもらう仲とか?」 「……っ」 M字に目を向けられて、雪はすかさず視線を逸らす。 「なんだ、図星かよ!だったら会長に遠慮することもねーし、会長から報復される恐れもないわけだ。恋人じゃねーなら、俺達誰かの匂いがついても平気だよな」 「く……っ」 何も言い返すことが出来ず、ただひたすら奴等を睨み付けた。 雪は怒っている顔もセクシーだとからかわれ、我を忘れそうになるほど怒りで頭がパンクしそうだ。 しかし、今の自分には為す術がない。 雪はぎりっと唇を噛み締めた。 (むかつく……!こいつらみたいなクソが、この学園にいたなんて……!) 「まぁ安心しろよ。マワそうなんて鬼畜なことは考えてねえから。あくまでお前は景品なんだから。ただ景品は何されても文句言えねーけどな、はははっ」 「おいっ、始まったぞ騎馬戦」 一見普通の平凡生徒が鉛筆を片手に、耳にイヤホンを差した。 誰がこの騎馬戦を制すのか。 ここにいる6人がそれぞれ違う選手に賭けていて、その結果一番多くハチマキを集めた選手に賭けた者が勝者ということなのだろうか。 雪は殺されるのはもちろん嫌だが、それがないとわかった今、雷太じゃない誰かにマーキングされ、犯される──そっちの方が、余程、死ぬほど嫌だと思った。 ハイエナ達は平凡の実況中継に耳を傾け、雪は放置されている。 その隙にも雪は脱出方法を考えた。 ウサギは臆病で、寂しいと死んでしまう生き物だと言われてきた。 しかし雪からすればそんなのは迷信だ。 寂しがりなのは認めるが、そんなことで死ぬのなら、もう何百回、何千回と死んでいるだろう。 それよりもウサギの特殊能力として親から聞かされた迷信がある。 本当にそれができるのかはやってみなければわからないし、できたとしてもそれが特殊能力なのか検証不可能な力。

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