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第121話
それは自ら心臓を止める自殺という特殊能力。
嫌な思いをするのなら、苦しい、痛い思いをするのなら、いっそのこと自分で心臓を止めてしまおう。
そうした能力がウサギには備わっていると、ウサギを始祖に持つ獣人達の間では猟奇的な迷信として受け継がれているのだ。
雪はそんな能力を自分が持っているとは微塵も思わない。
実在するとも思っていない。
しかし、これを利用できないか考える。
そうこうしている間にも、競技は進行する。
「やっぱトップは鬣犬先輩だな」
鬣犬、聞いたことのある名前。
雪は記憶の中から鬣犬の名を引きずり出した。
雷太が雪と付き合っていると宣言した朝会の時、雪に話しかけ肩を組んできた失礼な奴だ。
ここにいる小物のハイエナ達よりも、強い肉食の匂いだった。
でも匂いが似ている。
(鬣犬はこいつらの頭なのか?)
けれど、嫌な感じの種類が違う。
(こいつらの方が余程最悪だ!)
一か八か、雪はゆっくり口を開いた。
「鬣犬先輩はこういうの黙認するタイプ?俺、鬣犬先輩のお気に入りなんだけど、知らなかった?」
雪の台詞で6人全員が体を一瞬硬直させたのがわかった。
「そんな話聞いたことあるか?」
「ねぇな。こいつの狂言だろ、どうせ。会長にマーキングされてんのに鬣犬先輩もモノにできるわけねーよ」
「だな。残念だったな黒兎。俺達はそんなデマに騙されねぇぞ」
(だめか)
全く取り合ってもらえず、奴らは騎馬戦に夢中になっている。
やがて、競技の終了を知らせる鉄砲の音がパーンと遠くから微かに聞こえた。
「よっしゃ!鬣犬先輩だ!さすがだな!!」
「くっそ、またお前かよ」
卑しい笑いと、誰が買った負けたのやり取りがあり、転がされた雪の上からM字刈込みのハイエナが覆い被さる。
「こいつら見てるからまな板ショーになるけど、ちゃんと気持ちよくしてやるからな」
どうやら勝者は、こいつらしい。
まな板ショーとは一体何だ?と雪は顔をしかめて見せる。
それに本当にこいつは自分をセックスの相手にできるのか半信半疑に思い、犯されるという実感がなかなか湧いてこない。
しかしそれが本当ならば、死ぬほど嫌だ。
「俺の体で勃つのかよ。俺はお前らと同じ男だ。胸は当たり前だけど平らだし、付くもの付いてるし、ついでにいうとデカイし、……黒いし、……グロい」
雪は思い付く限り、事なきを得る為の抵抗の言葉を並べ立てる。
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