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第135話
身支度を整え私服に着替える。時間を確認して朝食をとるために食堂へ向かった。
食堂の入口で象山と同じ草食組生徒会の小鳥が、一緒に何か立ち話をしている。
小鳥は雪に気付き、象山の服の袖をくいくい引っ張り雪の存在を知らせる素振りを見せた。
「ん?あぁ、おはよう黒兎。羊ケ丘は一緒じゃないのか」
「おはよう……優也は何か用事があるんだって」
「そうなのか」
「うん。そうだ、あのさ、象山はクリスマスの日何してる?」
「俺か?俺は小鳥と一緒に部屋で過ごす予定だが……な、小鳥?」
「はい。その日は象山会長の部屋でケーキを一緒に食べる約束をしてるんです」
へへっと恥ずかしそうに小鳥が笑う。
「へぇ。ケーキ食べるだけ?」
「え……」
雪が何気なく聞いた言葉が象山と小鳥を硬直させた。
「それは当日のお楽しみってもんだろ黒兎。お前も山王とデートするんじゃないのか?」
─お前もデート……?
「……ぇ、まじで……?」
雪の鈍い思考回路が繋がって、雪はこの時初めて象山と小鳥がデートするのだとわかった。
野暮なことを聞いてしまったかもしれないと、雪は長耳をピンと張ったまま「ごめん。どうぞ続けて」と、その場からそそくさと移動した。
緑青内の食堂に入るとほわほわとコンソメスープのいい香りが漂い、雪の腹がきゅるきゅると鳴る。
「おばちゃん、モーニング一つちょうだい」
「はいよ」
雪はスープの香りに誘われて、朝の定番モーニングセットを注文した。野菜のサンドイッチにスープ、スクランブルエッグのついたセット品だ。
おばちゃんが調理場に向かって「モーニング一つ」と声を張る。
雪の注文を受けた食堂のおばちゃんは太く短い長耳を持っていた。
雪とは種は違うが兎の獣人で間違いない。
おばちゃんとはいえ人生の先輩だ。雪はこのおばちゃんにもクリスマスプレゼントについて聞いてみることにした。
「おばちゃん、あのさ……」
「なんだい?デザートもつける?」
「いや、違うんだけど」
「どうしたの?何か悩み事?」
おばちゃんは不思議そうに雪を見詰めた。その顔はまるで人生相談をこれから受ける気まんまんな表情にも見える。
次の木曜がクリスマスな上プレゼントが入手できそうにないという切羽詰まったこの状況に、雪はどんな助言でも欲しかった。
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