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第136話
「例えばさ、おばちゃんの旦那さんがおばちゃんにクリスマスプレゼントを準備し忘れていたとして、何もプレゼントされなかったらどう思う?」
「プレゼント?」
「そうねぇ」とおばちゃんは首を少し傾げて言った。
「光り物の一つももらえれば嬉しいと思うけど、それよりも健康で毎日働きに出てくれることに感謝してるから、元気でいてくれればそれでいいわ。……でも若い頃はやっぱり何か形あるものが欲しいって思ってたかもねぇ」
「健康で元気か……」
(そりゃあ雷太が病気とかしちゃったら、きっと落ち込むだろうけど)
確かに生きていくには体が資本だ。しかしおばちゃんのように長い人生を積み重ねているわけでもない。たかだかまだ十数年。
おばちゃんの言うことも一理あるが、それは年齢相応の考え方のように思えた。
「何か悩んでるの?」
おばちゃんの目が好奇の輝きを持って雪を見詰める。
ここで自分のことを根掘り葉掘り聞かれても困る。
雪は慌てて首を横に振り、否定した。
「違う違う!俺じゃなくて友達の悩み!おばちゃんの話参考になった。ありがとう!」
「あらそう?」
こんな話だけじゃ物足りないとおばちゃんの目が訴えているような気がして、雪はモーニングセットを受け取るとカウンターから一番遠い端の席へと移動し、再びプレゼントについて何か準備したほうがよいのか、それとも本当に気持ちだけでもよいのだろうかと逡巡する。
食堂の隅でサンドイッチを齧りながらコンソメスープを啜りほっと穏やかな一時を過ごしていると、草食組生徒会副会長である牛島がどういうわけか優也と一緒に食堂へやってきてカウンターで何か注文をしている。
(優也のやつ用事があるって……まさか牛島とご飯食べるのが用事だったのか?)
雪は首を傾げながら皿に残ったスクランブルエッグの最後の一口を咀嚼する。
もぐもぐと卵の甘味を噛みしめながら、先刻見た象山と小鳥の姿を思い出し、はっとした。
(牛島と優也が……デキてる!?)
そんな話は一度も聞いたことがない。もしそうであれば優也はこのことを雪にはまだ隠しているということになる。
雪は見てはいけないものを目撃してしまったかもしれないと、大慌てでぴんと張ってしまう長耳を下へと引っ張り、羽織っていたパーカーのフードを被った。
俯きながら優也と牛島を観察し、カップに残っているコンソメスープをちびりちびりと口に入れる。
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