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第138話
早くも作戦失敗である。
雪が追い掛けていたはずの優也と牛島が雪の後ろにいる。
こうなってしまっては尾行どころではない。
雪は咄嗟に気付けば2人の行き先を聞く始末。
デートだという答えが帰ってきたらどうしよう?と自分から聞いておきながら心臓が急にばくばくと音を立てる。
「っていうか、雪こそそんな薄着で何してるの!?風邪引くよ。雪遊びしたいなら、ちゃんと厚手の上着来て、手袋しなくちゃダメだ」
「あ……はい……」
逆に何をしているのかと問い質されてごもっともです、と雪はただ頷いた。
「黒兎さん!早くこっちきてください!風邪ひくっすよ!」
「え、ええぇ……」
更に牛島が突然小走りに雪のところへ駆けてきて、雪の肩をぐいっと抱き寄せ緑青の入り口まで引き摺るようにして移動させた。
どうやら防寒着を着ないことには外へ出してはもらえないようだ。
そして雪の質問に対する答えが返ってきていない。
「雪、ちゃんと部屋に戻って温かくしてから外に出るんだよ」
優也は念を押すようにそう言うと、牛島と肩を並べて歩き出した。
「あいよー……」
雪の気の抜けた返事を聞いて優也が振り返り肩を竦めてみせる。
優也がどうして自分の問いには答えなかったのか、もやもやとした疑念が胸に広がり、雪は2人の背中をじっと見詰めた。
2人が向かう方向にあるのは、やはり中央棟。
そこに何があるのだろう。
「は……はくしっ」
雪は小さなくしゃみと共に、寒さにふるっと身体を震わせ、とりあえず癪だが優也の言うとおり防寒してから出直すことにした。
部屋に戻ると雪の帰りを待っていたかのように部屋の内線電話がピリリリと鳴り響いた。
「はい、もしもーし」
『中央棟電話交換室です。肉食組の山王会長から羊ヶ丘君にお電話です。羊ヶ丘君ですか?』
「え、あ、はい」
雪は思わず嘘をついてしまった。
雷太から優也に電話だなんて、一体何の用事で?
更に言えば、今日は休日だ。
恋人の自分を差し置いて、ルームメイトに電話?
自分には何もないのかと。
『お繋ぎします』
プツッと回線が切り替わる音がして、雪の大好きな雷太の声が耳に届いた。
『羊ヶ丘か?』
「違うけど」
『……雪?』
「だったら何か不都合なことでも?」
無意識に声のトーンで不機嫌さを表にする。
雷太も雪の微妙な空気を察したようで、少しおかしな間が空いた。
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