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第139話
『いや何も……。そこに羊ケ丘はいないのか?』
「いないけど、何か用があるなら伝えるよ」
『いや、いないのならいいんだ』
雷太まで自分に隠し事をして優也に用事とはどういうことだ。
休日なのに。恋人なのに。と、雷太がコンタクトを求める優也に嫉妬し、自分に隠し事をして中央棟へと向かった優也と牛島にも嫉妬した。
それと同時に不安に襲われる。
「優也は俺に内緒で牛島と中央棟の方に行ったよ」
「そうか」
「雷太も俺に内緒で優也と何か予定があるのか?……隠し事されるのって、なんか……」
怖いし不安だし落ち着かない。
雪はそれらの言葉を声には出さず嚥下する。
どれを言っても子供じみていて格好悪いような気がした。
雪が黙ると雷太が焦ったように雪の名を呼ぶ。
『雪?……不安にさせてすまない。雪、これから会えないか?』
「……俺と会えるのか?いいの?」
『いいも何も、雪を不安にさせることの方が心配だ。そんな思いをさせるつもりはない』
「うん……」
雷太が最優先すべきは雪なのだと、自分は愛されているのだとはっきりと電話越しに伝わってくる。
それがわかれば優也に何の用事があるのか知らないが、何か約束でもあるのならばそっちを優先させてもかまわないという気にもなった。
優也と約束があるのならそっちへ行ってもかまわない。
そう伝えようと口を開きかけたその時。
『雪も俺と一緒に中央棟に行こう』
「え、何で」
行ってもいいのか。そもそもなぜみんな中央棟へ向かうのか。中央棟で何があるのか。
好奇心がむくむくと湧き上がる。しかし雪は誰からも誘われておらず、雷太だってきっと仕方なく自分を誘ったようなものだと、雷太からの誘いを少し卑屈に解釈していた。
『行けばわかる。そうだ、蓋のついた瓶は持っているか?』
「瓶?持ってない。ないとだめなの?」
空き瓶など集める趣味はないし急に言われてすぐに準備できるものでもない。
『だったらいいんだ。食堂でいらない空き瓶がないか聞いてみる』
「え、じゃあ俺も聞いてくる。余りがあればもらってくるよ」
『あぁ。じゃあ頼む。俺は今から東雲を出る。緑青の前まで迎えに行くから温かい服装で出ておいで』
「うん、わかった」
別に迎えに来なくても、中央棟で待ち合わせでもよかったのに。
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