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第142話
「科学実験室へ行くぞ」
「実験室?何があるんだ?」
「着いてからのお楽しみだ」
雷太は楽しそうに言う。金の尻尾が右に左に揺れていた。
なんだなんだ?と雪は首を傾げながらも雷太の様子を見ると嬉しくなる。
好きな人が楽しそうにしているだけで、自分も楽しくなるなんて。
恋人がいるってこういうことなのかと頬が緩んだ。
雪は雷太に続いて中央棟の中へ入った。
化学実験室は2階の階段を上がってすぐ隣にある。
扉の前まで行くと、既に先客が居たようで何か話声が聞こえてきた。
同じく中央棟へ向かった優也と牛島のことを瞬時に思い出す。
雷太が扉を開けると中から「お疲れ様っす!」と声がした。
「お疲れ様。瓶が思いのほか結構集まった」
「結構ありますね。塩化アンモニウムは十分にあるけど、中に入れる飾りが足りないかも」
雷太の手元を覗き込んでいるのは優也だった。
雷太の肩越しに柔らかそうなミルクティー色のゆるいウェーブがかかった髪に、くるくると巻貝のような羊の角が雪から見えている。
(塩化アンモニウム……?実験室にくるくらいだから何か実験するのか?)
休日なのにみんなでこんなところに集まって勉強するなんて嘘だろう?と雪は雷太の後ろで眉根を寄せる。
優也は瓶を覗き込むと同時に、雪の黒い長耳が視界に入ったのだろう。雷太の背中に隠れるようにして立っていたのだが、すぐに気付かれ、優也がひょいと雪に顔を見せる。
「あ、雪!……って、山王会長、雪に見せていいの?」
「あぁ。内緒にしておくのは可哀想だ。せっかくだから一緒に楽しみたい」
「そっか。そうですね。雪は多分、秘密事をされるの嫌いなタイプだしその方がいいかも」
「え、やっぱり俺に秘密で何かしようとしてたのか?」
仲間外れにされた感が否めず、雪は頬を少し膨らましながら雷太の後ろからひょこんと姿を現した。
そこには雷太と優也、それから牛島がいる。
なんだか変な取り合わせのメンバーだ。
雪はじろりと3人の顔を見回す。しばらく全員沈黙していたが、後輩である牛島が口火を切って雪に頭を下げた。
「こそこそしてすいません!!黒兎さんを怒らせるつもりは全然なかったんすけど、どうしても山王会長の力になりたくて……」
「え……?雷太の力に……?」
雪は何が何だか訳がわからなかった。
「いいよ牛島、ありがとう。俺が話すよ」
「……はいっす」
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