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第144話
「この薬液が冷えてくると、この瓶の中に雪が降るんすよ」
「雪!?この瓶の中に?」
雪は目を丸くする。
雷太と一緒に作ったライオンとウサギが仲良く座っているこの瓶の中に雪が降るなんて一体どんな魔法だろう。
今は熱くて触れない瓶を真横から覗く為に雪は中腰になりライオンとウサギの置物に目線を合わせ皆で瓶の中の水溶液を観察した。
「あ……」
しばらくすると、白い雪のような星形をした小さい粒が無数に瓶底へ向けて降り始める。
堪らず皆、「おぉ」と感嘆の声を上げた。
「すごい……!本当に雪が降ってるみたいだ!」
「うわぁ……これはきれいだね」
優也も目を見開いて自分の作った雪だるまが入った瓶をじっと見詰める。
「確かにこれはすごいな。ロマンチックな気分になる」
雷太もまた驚きを隠せない。
小さな粒は瓶底へと降り積もり、雪の中ライオンとウサギが佇む2匹だけの幻想的な空間へと変化した。
「結晶……か?」
雷太が牛島に問う。
「はい。これ、実は塩化アンモニウムの結晶なんす」
「結晶?」と雪が牛島に問い返した。
「はい。塩化アンモニウムはお湯と水とでは溶ける量が違うんす。お湯には沢山溶けるけど水にはあまり溶けません。なのでお湯が冷たくなってくると温度の関係で溶けきれなくなった塩化アンモニウムが結晶になって現れるんすよ」
牛島の説明を受け、雪、雷太、優也の3人はなるほどと、感心しながら頷いた。
「牛島すごいな、先生みたいだ。それに牛島の瓶、都会のビルに雪が降ってるみたいでカッコいい」
「いやぁそれほどでも」
雪に誉められ照れたように牛島が頭をかく。
「羊ヶ丘のは雪だるまと降り積もる結晶がとてもよくマッチしているな」
雷太は優也の瓶を眺めて言う。
「僕のは狙い通りなんだけど。会長と雪の瓶は2人そのものだね。雪の中でデートしてるみたい」
「そ、そうかな…」
雪が優也の言葉を受けてもじもじする隣で、雷太は「うんうん、そうだろう」と満足そうに頷いていた。
雪は結晶が完全に降り止み底に静かに沈みきるまで、じっと瓶の中のライオンとウサギを見つめ続けた。
「雪、クリスマスには少し早いけどこれを受け取ってくれないか?」
「……いいの?」
雷太が結晶の沈殿した瓶をそっと持ち上げ、雪へ手渡すようにして向ける。
雪は瓶と雷太を交互に見詰め、雷太が嬉しそうに微笑んでいることに胸を詰まらせた。
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