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第145話

「ありがとう。嬉しい」 作ってもらった瓶の置物にも喜びをもちろん感じるけれど、それ以上に嬉しそうに微笑む雷太が愛おしい。 胸の奥がきゅっと震え、雪はそれをそっと両手で受け取った。 恋ってすごい。 昨日よりも今日。今日よりも明日。 好きの度合は高まるばかりで停滞することを知らない。 雪は強く優しい雷太から目が離せなかった。 「じゃ、僕達後片付けとかあるし、会長と雪は先に帰りなよ。ね、牛島」 優也が雪の肩に手を置いて雪の体を扉の方へ回転させた。 「あぁ、そ、そっすね……。後はやっときますんで」 「え、もうおしまいっ?って優也、何で押すのっ」 「強制退場だよ」 「え、ええぇ」 「山王会長背中押してすんません!」 「あ、あぁ……いいのか?」 「いいんす。黒兎さんとゆっくりしてください」 「そうか、悪いな」 空気を読んだ優也と空気を読まされた牛島に、雪と雷太は背中を押され、追い出されるようにして科学実験室を後にした。 「なんだよ優也の奴。そんなに俺と雷太を追い出したかったのか?牛島と2人で何するつもりだろ。また隠し事かな」 雪がぶつぶつと言いながら、雷太からもらった瓶を大事そうに抱え、ぴょんぴょんとリズミカルに階段を駆け下りるのを見て雷太が笑う。 「後片付けまでしてくれるって言うんだから、まぁいいじゃないか」 「それはそうだけど……あ!もしかしてあの2人、付き合ってるとか……?象山と小鳥がそうだったっていうのも衝撃的だったけど、優也と牛島か。なんかしっくりこないな」 「みんながみんな、付き合っている訳じゃないと思うぞ。第一男同士だし、そうなるまでに俺たちだって色々あっただろう。あの2人は違うんじゃないか」 「そう言われてみればそうだな。雷太のこと好きなのに、なかなか好きって伝えられなかったし……」 雷太に想いを伝えられぬまま、体育祭で軽い仮死状態となり短い時間ではあったが生死の境を彷徨った。そして、朦朧とする意識の中、どうして"好き"という2文字が口に出来なかったのかと後悔した。 結果的に意識はすぐに戻り、もうこんな思いをするのは絶対に嫌で、雷太にしがみ付きながらずっと好きだったのだと告白したのだけれど。 ふっと当時の光景が脳裏に蘇る。思い出したくもないけれど、雷太と想いが通じ合った貴重な一時だったことも確かだ。

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