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第146話
「それは俺も耳が痛い。雪に怯えられ、嫌われることを恐れるあまり、自分の気持ちをずっと誤魔化し続けた。本当は雪が可愛くて可愛くて仕方がなかったんだ」
「可愛くて……?」
そんな風に思われていたとは思わなかった。ストレートにそう表現され、聞いているこっちが恥ずかしくなる。
可愛いという言葉は、男に向ける褒め言葉としては相応しくないと思っていた雪だが、雷太の"可愛い"は雪の胸をきゅっと甘く疼かせる。
「あぁ。可愛いよ雪。でもなかなか言い出せなかった。雪だってそうだったんだろう?」
「うん。お互い意地を張って微妙なすれ違いが生まれて。俺も雷太も、意地っ張りなところは似てるよな」
「そうだな」
雷太と雪は顔を見合わせて笑った。
外に出ると太陽が真上にあり、白銀の世界がきらきらと輝いているように見える。
とても、綺麗だった。
「雪、この後時間があれば、俺の部屋へ遊びにくるか?同室の蛇塚がいるかもしれないが、嫌じゃなければ。せっかくだから蛇塚を紹介するぞ」
「いいの?行きたい!……あ、けど、ごめん、用事思いだした」
雪は雷太のクリスマスプレゼントを何も準備していなかったことを思いだした。
雷太が作ってくれた瓶の置物をじっと見詰める。
こんなに素敵で心の籠った贈り物をしてもらったのに、自分は何も考えていない。
本当は雷太と本気の雪合戦でもしたいところだったが、遊んでいる場合じゃない……!と焦り出す。
「用事?」
「あぁ、うん……。実は未提出のレポートがあって……」
「そうか。残念だな。じゃあ今度会えるのはイブの日か」
「うん、そうだな」
嘘ついてごめんと心で謝り、雪は緑青の手前で雷太と別れた。
雪は部屋へ戻ると雷太からもらった瓶を机の隅に置き、しばらく眺めて「うーん」と唸り声を上げた。
何かあげられる様な物はあっただろうかと、机の引き出しを上から順に開けては閉め、開けては閉めを繰り返し物色する。
未使用の消しゴムにシャープペンの芯、ノート、ポケットティッシュ。
新品は新品だがプレゼントとしてあげられる様なものでないのは一目瞭然だった。
「はーっ……どうしよ……」
思わず机に突っ伏した。雷太はちゃんと考えてくれていて、こんなにも素敵な贈り物をしてくれたのに。
どうしたらいいものかとしばらく考え続けていると、優也が部屋に戻ってきた。
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