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第147話
「あれ、雪いたの?てっきり山王会長と一緒にデートでもしてるのかと思った」
「そりゃデートしたいのは山々なんだけどさ。なぁ、それさっきの塩化アンモニウムの結晶?」
「そう。雪達が持ってきてくれた瓶のあまりを全部使って作ってきたんだよ」
優也の両手に抱えた小さなダンボール。中には先刻みんなで作った結晶の置物が5本も入っていた。
「それどうするんだ?」
「誰かからもらったクリスマスプレゼントのお返しにしようかなと思って。この瓶の中にクリスマスツリーのオーナメント入れて、外側にリボン巻けばそれっぽい感じになるでしょ。お金もかからないしね」
「そっか」
そういえば優也はモテるんだった。
量産したその置物で適当に相手をあしらおうとしているのだろうか。
なかなかやるな、と雪は優也に感心しきりだ。
「で、雪はどうしたの。なんで部屋にいるの」
「いちゃ悪いかよ。……プレゼント、俺だけ何も決めてないから考えてたんだ」
「えー、まだそんなこと言ってるの。正直会長は雪からのプレゼントなんて期待してないと思うよ」
「へ?」
思わず雪は間抜け面を優也に晒した。
だって意味がわからない。雷太からはあんなに心の籠った素敵なプレゼントをもらったのに、ただ受け取るばかりではフェアじゃないし自分の気持ちだって伝わらないと思うからだ。
「雪は会長からプレゼントもらわなかったら会長のこと嫌いになる?」
「いや、それはないと思う」
「どうして?」
「どうしてって……そんなことで嫌いになるなら、それは本当の好きって気持ちじゃないだろ」
「うん。僕もそう思うよ。雪がそう考えたように会長だって同じこと考えてると思うよ。だから今から無理してプレゼントを準備しなくたっていいと思う。そりゃ一生懸命考えて何か贈り物をしてもらったのなら嬉しいと思うけど、何も思いつかないんでしょ?それにこの天気で町へは下りられないし」
「うん……」
優也の言うことは正論だと思う。
しかし雪からも何か贈りたいという気持ちは強い。
「どうしてもって言うなら……」
優也はそう言いながら自分の机の引き出しから緑と赤のトリコロール色をしたリボンを取り出し、50センチほどしゅるしゅると引っ張ってハサミで切った。
「……?」
そのリボンが雪の首に掛けられる。
優也がそのリボンを雪の顎下で蝶々結びにした。
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