149 / 161

第149話

他愛ない話をしているだけなのに、雷太と過ごす時間は本当にあっという間だ。 いつの間にか東雲へ到着し、気付けばもう目の前に雷太の部屋がある。 前にここへ訪れた時は烏合に抱えられ、空を飛んで窓からお邪魔したのだが、今回は違う。 ちゃんと東雲の門をくぐり、入り口から入った。 東雲の寮生達はこの場に草食の雪がいることにざわめき、雷太と一緒だったからか挨拶までしてくれる者もいた。 雷太が自室のドアを開け一足先に中へ入ると扉を押さえて雪の入室を待ち、まだ見慣れない雷太と蛇塚の部屋をきょろきょろとする雪が中に入ったのを確認するとドアを閉めた。 パタンとドアの閉まる音がして、その後、カチャンと鍵をかけた音がした。 雪の耳がその音に反応し、ぴくりと動く。 「……鍵かけたのか?」 「あぁ。誰にも邪魔されたくないからな。蛇塚は夜まで戻らないと言っていたし了承済みだから気にしなくていいぞ」 「そっか」 雪は部屋をきょろきょろと見回した。 雷太の大きなベッドに机。鏡に写したように蛇塚の机とベッドも反対側に配置されている。 明らかに雪の部屋より、雷太の部屋の方が広い。 「部屋広くていいな。俺のところは二段ベッドな上、フリースペースも狭いぞ」 「そうか。多少体の大きさを考慮した部屋割りにされてるのかもしれないな。きっと象山や牛島なんかは、緑青の中でも広い部屋に配置されているんじゃないか」 「そっか。なるほど」 確かに象山が雪と優也の狭い部屋にいるところを想像すると狭苦しくむさ苦しい。 雪が一人納得していると、雷太が自分のベッドに腰掛け雪に向かって手を広げた。 「雪、おいで」 「……」 雪はコクリと小さく頷いて、雷太のもとへと歩み寄る。雷太の膝頭に手をついて雪をじっと見詰める雷太を雪もまた見詰め返した。 すると両脇にすっと手を入れられて、ヒョイと持ち上げられる。 「わっ」 「ふっ」 雷太は雪の慌てる様子を見て笑っている。 そのまま雷太の腿を跨がる体勢をとらされ、一気に羞恥心が押し寄せて、雪は頬を赤く染めた。 それとは別に、雪は雷太に言わなければならないことがあった。 「雷太、実は俺……」 「うん?」 プレゼントがないだなんて口にするのは非常に抵抗がある。 けれど自分だったら雷太と一緒に過ごせるだけで十分だ。 雷太もきっと同じ気持ちでいてくれると信じたい。

ともだちにシェアしよう!