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第13話

ヨシとは長い付き合いだ。 言葉にしなくても、なんとなく気付いている。 俺がサクヤを好きだと言うことを、そのことがよけいヨシの気を逆立てているんだ。 だいぶ足のマヒが弱まってきて、サクヤは壁を支えに立ち上がる。 「あんた、ヨシにオレの事なんか言ってんのか?」 痛みのせいで不機嫌にユウをみて言うサクヤ。 オレの悪口でも影で言ってるのか? 「…サクヤ」 首を横に振り、否定するように名を呼ぶユウ。 「…オレは、あんたが、一番わかんねーよ!」 サクヤは、吐き捨てるように言って個室のシャワー室へ入る。 その姿を目で追う。 何も出来ずにその場に、しばらく立ちすくんでしまう…。 「……」 サクヤの言葉に胸がつまる思いのユウ。 サクヤは諦めよう…そう思う。 自分は、諦めてしまう事が一番楽だったはずなのに…奥底で抵抗する心。 ユウは、それを無視するように別の個室へと消える。 シャワー室で、今日一日の出来事を洗い流すような思いで湯を浴びていく。 「ふぅ、キモチいいーっ」 全身を洗ってきれいになったサクヤ。 自分の服に着替え、帰りはじめる。 まわりを確認して部屋を出る。 今度は運良く誰にも会わずにBOUSを出ることが出来た。 ここからは、性優サクヤから楠木アキラへ戻るのだ。 アキラは足ばやに呼んでいたタクシーに乗り、ルードのいる自宅を目指す。 時刻は夜11時がこようとしていた。 ようやく家に着いてリビングの机の上をみるアキラ。 あいかわらずの汚い字だけど、ルードが書いたメモが置いてある。 内容は―。 (あきら、おかえり!ご飯は肉じゃがつくったから温めて食べてな!おれは先に寝ます。おやすみなさい!ルード) 「ふっ」 アキラはメモを見て微笑む。 この家にはオレとルードしかいないのに名前をわざわさ書いてる所がルードらしい。 メモを置いて 3階の自室へ自家用エレベーターを使ってのぼる。 すっかり熟睡のルード、起こさないように髪へ触れ… 「ただいま、ルード…」 やさしくかたりかける。 家に自分の帰りを待ってくれる人が居るということに、ささやかな喜びを感じながらルードを放す。 アキラの長い一日は終わって、また明日から学校に行く普通の学生としての生活がはじまるのであった。 《裏の仕事》終

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