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第39話《否運の束縛》
天気の良い平日の夕方。
時は11月1日。
アキラが罰撮影を受けて4日が過ぎた。
ルードはいつものように、学校からアキラの家へ帰っていた。
家まであと10分と言う所で誰かの怒鳴るような声を聞き、そちらへ目を向けるルード。
「あいつは…」
見覚えのある顔…。
「帰ってくれッ父さん!もうここには、あんたにやる金はないんだッ!」
茶髪で細長身の人物がアパートの戸の前で父と呼ぶ人物を中に入れまいと必死に抵抗していた……。
「嘘を言うなッ」
父親は息子よりもやや背が高く、大きな子供がいるようには見えないくらい若い顔と身体つきをしている。
「いいかげんにしろよッ!父さんがマジメに働かないから母さんもッ」
バシッ!
父は息子のその言葉に反応し、顔をこぶしで殴りつける。
「痛ッ、いつもそうだッあんたは自分の都合が悪くなったら暴力にうったえる!」
殴った相手を睨みつける。
「うるさいッ!誰がお前を、ここまで育てたと思ってるんだッ」
「俺はあんたに育てられたなんて思ってないッ!」
「なにッ!」
「思える訳ないだろッいいから帰ってくれっ!」
強く父の身体を押して帰るよう促すが、相手もかなり力があり、無理にでも割り込もうとする。
「中へ入れろッ」
「やめろよっ!おっさん!!」
いきなり割り込んできた小さな身体に、二人は一時動きを止める……。
ルードは見ていられなくて二人を止めに入ったのだ。
「なんだッ関係ない奴は引っ込んでろッ」
父親の方がルードを怒鳴る。
「嫌だね!この人、家に入れたくないって言ってんじゃん!」
怒鳴る声にも怖気付く事なくまっすぐ言い返す。
突然の加勢に息子は驚く。
「うるさいッ!殴り飛ばされたいのかっ!」
さらに、カッとなってこぶしを振り上げて、息子をかばう子供に怒鳴る……。
「すれば!でも、おれの父さん警察官だから、あとから困ることになるよ!おっさんッ」
頭の良いウソをつくルード。
「ちッ…ガキがッ」
それを聞いてヤマシイことがあるのか、悔しそうに退散していく父親だった…。
「…お前は…?」
半ばボウ然とやりとりを見ていた息子、いきなり現れた金髪の少年に静かに声をかける。
「どーも、あんたの家ここだったんだな…ユウだっけ?」
ルードは、明るく話しかける…
「え…知っているのか、俺の事…」
「おれ、アキラ…、じゃない、サクヤの家に居候してて、この前あんたらビデオ撮りに来ただろ、あのとき、おれベランダに居たんだ、アキラが隠してくれて……」
「…そう、か、あの時の事、すまないことをしたとサクヤに伝えておいて欲しい…」
顔をふせ、静かに頼む。
「アキラも分かってたよ、あんたが望んでやったんじゃないって事…」
「……あぁ…」
「さっきのって、ユウの父親?」
「…あぁそうだ」
短く頷くユウ。
「あんまり似てないなぁユウと」
「……俺は母親似だから」
無表情でルードの言葉に答える。
「あいつ、一体何しにお前んトコ来るんだ?金?」
気になって聞いてみる。
「あぁ、そうだ…働きもせず、俺の金を奪いに来る。それに……」
ユウはそこまで言いかけてやめる。
「それに?何?」
気になり問うが…
「いや、なんでもないんだ」
ユウは少し笑い首を振る。
「…ユウ?」
「今日は本当に助かった。家が近いのか?」
何げに聞く…。
「うん、すぐそこ、アキラんち、おれの家の向かい側にあるんだ」
笑顔で答える。
「……アキラ」
サクヤの本名、静かに呼んでみる。
「……?」
その様子をじっと見て、ルードはユウの殴られてはれた頬に触れる。
ハッとルードを見る。
「大丈夫か?手当しようか?」
やさしく言ってくるルード。
「い、いや、このくらい平気だ」
一歩さがりながら手をよけて言い返す。
「そう?じゃお大事に!またなっ」
そのまま走って帰っていく。
「またなって…」
本名も知らない同士なのに、もう合わないだろうと心に思いながらアパートの戸を開くみずき。
その途端、後ろから強い力で突き飛ばされる。
……ドンッ!
勢いで倒れ込むみずき。
「ッと、父さん!?帰ったんじゃ…」
父は部屋の中に入り、戸をバタンと閉める。
「金がないんだッ何もできねぇのに帰れるかッ!」
そう言いながら家に上がり、部屋の引き出しなど荒らしていく父親。
「ッやめろ!もう父さんにやる金はないッ!」
部屋を荒らしまわる人物を身体ごと止めに入る。
近づいたスキにみずきの財布を抜きとる…。
「ッそれはッ!返せ」
「あるじゃないか、一枚は置いてやるよ!」
中身を確認して万札五枚のうち四枚を取る。
「っ、その金はッ俺がッ」
みずきの言葉が途中でとぎれる。
父親がみずきを蹴り飛ばしたからだ…。
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