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第40話
「ッう……」
呻いてみずきは転がる…
さらにその上から腹をめがけて蹴りを入れる父。
痛みで動けないみずきを引きずり、奥の部屋へ連れこむ。
当然抵抗するみずき。
「ッ、嫌だッ!俺は母さんの代わりじゃないッ!」
叫ぶ声も無視で殴り大人しくさせようとする。
「お前が駄目ならユウリの所へ行ってもいいんだぞ」
父のその言葉に身体が縛られ動けなくなる。
ユウリ…姉さん!
これ以上この男のために、ようやく幸せをつかんだ姉さんの今を奪わせたくない…。
父はかまわず、みずきの口をガムテープで覆い、電気を落としこの部屋をまっ暗にした。
暗闇と言うだけで肩が震える。
「ッ……」
冷たい床に抑えつけられ、そして…豹変する父。
女性の身体を触るように、やさしく素肌を撫でてくる。
血の繋がった者の手……。
「……ユウカ…」
その、愛する一人の名を呼びながら薬に狂った男は、忘れられない人を俺に映して何度も呼ぶ。
「んっ」
俺の存在はこの男の中から消しさられる…。
……いつ終わるともしれない日々。
何度も何度も、息子を抱く……。
「ふっ……ッ」
(……姉さんの幸せを守るためなら…俺は……)
手にぐっと力を入れて握りしめる。
心の中で生じる葛藤。
(でも、なんで…俺が…)
ゆっくりと入ってくるモノに強烈な拒否感が生まれる。
「ッぅ……」
「…ユウカ、愛してる…」
その言葉にゾクリとなる。
「っんッ…」
(俺は、母さんじゃないッ)
血の繋がった者のそれは、痛みと苦しみしか生まない。
こうしてヤられた後の仕打ちを知っているのだから――。
今、父の目に映っているのは、俺じゃなく母さんだから……。
「ぅッ……」
(父さん……)
身体を揺さぶり、別の世界を見る父…。
(……いつになったら『みずき』を見てくれるんだろう…、父さん…)
どうしたら、この哀れな人を救えるのか分からなくて……
辛い……。
「ッん…」
不意にその行為が中断される。
父は、みずきから素早く抜きさり。
次の瞬間。
……ドスッ!
おもいきり下腹部へ一撃……
「うッ痛ぅ!」
一気に正気に戻されるみずき。
「なんでオマエなんだッ!!」
そんな理不尽な言葉が暗闇に響く…。
「痛ッ…」
(そんな事、俺が聞きたい…)
さらに続けて殴り蹴られて、反撃する間もなく、口を覆うテープのせいで呼吸もまともに出来ないみずき。
「ッ…くッ、ぅ」
怒りをあらわにして数十回蹴ったあと暗闇から姿を消す父親…。
「ッハ、ケホッ、ゲホッ…ハァ、ハッ」
口に貼られたテープをはずして口に手をあて少し咳込む。
何度も腹を蹴られたせいか、血が薄く混ざる。
その手を握りしめる。
(そうだ…今にはじまった事じゃない…もう、ずっと前から続けられた行為……)
冷たい床に転がったまま、静かに時が過ぎるのを待つ。
暗闇がかすかな震えを誘う…いつまでたっても暗さになれない身体。
(一生引きずるのだろうか……)
そう一人で思い考えて起き上がる。
「ッ……」
蹴られた身体が悲鳴をあげる。
腹を抑えつつ立ち上がり、部屋を片付けようと動きだしたその時。
「おーいっ!ユーウっ!」
外から大きな声が聞こえた。
「え?…アイツ、戻って来た?」
「あれ?さっき居たのになぁ……」
疑問形で呼んでいる子ども、ルードだ。
その声につられ戸の方へ向かう。
「あ!やっぱり居た!」
みずきが、戸を開けるとそう返ってきた。
続けて言う。
「あのなぁ、この薬ケガによく効くんだぜ!なんか、あのままほって置けなくて…」
ルードの言葉を聞いていたら急に身体の力が抜けて、うずくまってしまうみずき。
「お、おい!どうしたんだ?大丈夫?」
慌てて心配しながら声をかける。
「す、すまない」
そう謝って立とうとするが腹部に痛みがはしる。
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