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第45話

「布団ここに入ってるからさ」 「あぁ」 「ひとつはベッドの横に、もうひとつはベッドの足元に持っていって」 手伝ってとは言ったもののアキラは指示して枕を出すぐらいでほとんどみずきに運ばせている。 それに何の疑問も持たず、言いなりで働くみずき。 敷き終わり…。 「ありがと、そっちでいい?オレ、足元の方で寝るから…」 声をかけるアキラ。 「あぁ……」 「じゃ、電気消すよ?」 「え、」 はっとするみずきを見て… 「あ、何?」 軽く聞き返す。 「いや、何でもない、おやすみ」 そう言ってみずきは布団にもぐる。 「おやすみ…」 アキラは変に思ったけれど部屋の電気を消す。 そしてアキラも布団に入る。 部屋が暗くなって一時間ほど過ぎたが、やはり眠れないみずき、心臓の鼓動が耳から離れない。 震える肩も止まらない…… 「はぁ…」 ひとつ溜息をして起きあがる。 頭を軽く振りながら、アキラを起こさないよう、部屋の戸を開け廊下へでる。 廊下は明りが付いていた。 そして、ポケットに入れていた煙草を一本取り出して立ったまま、火をつける。 「フゥー」 溜息とともに吐く白い息…… 「ここで寝るか…」 ポソっと言うみずき。 暗さから逃げる自分… すっと、部屋の戸が開く。 アキラだ…… 「眠れないか?」 「すまない、起こしたか?」 「いいや、別に…」 「……」 パジャマ姿に、髪をおろしたアキラはいつもとは違う雰囲気で綺麗だ。 「…大丈夫か?」 小刻みに震えている身体を見て… 「あぁ…」 みずきはアキラにそう返事して、肩を抑える。 頭を振り… 「駄目だな…止まらない……暗闇が、ダメなんだ……」 「それなら、言ってくれれば消さなかったのによ」 「いや……暗いのが恐いなんて……ガキだな、俺は……」 みずきは俯いて言う。 「そんなコトねーよ」 みずきの隣の壁にもたれ座る。 「暗さは、つらい事しか運ばなかったから…」 「お前、精神的にキツい事あるんだったら遠慮せずウチに来いよ、ルードと遊ぶの楽しいだろ……」 「……あぁ」 「ルードと一緒にいると、つらい事も忘れていられるっていうか、オレも救われてるからな……」 「サクヤ……」 「あ、出来れば、BOUS以外では、本名で呼んで、アキラでいいから」 「あぁ…俺は鈴鹿」 「みずきだろ…お前って思ってたより話しやすい奴だったんだな」 「話しやすい?」 「そ、もっと反応ない奴かと思ってた…」 少し笑って言うアキラ。 「反応って……」 つられて微笑するみずき。 アキラのそばにいると安らげる。 動きひとつ、ひとつにドキドキするけれど、そばにいると安心する。 それは、アキラが言ったルードに救われてるという思いと同じなのだ。 そう心で、ひそかに思うみずき。 いつの間にか身体の震えはおさまっている。 「みずきって一人暮らし?」 「…あぁ」 「いつから?」 「……中学卒業してからだが…」 「…ふーん」 「…アキラは、親は?」 気になっている事を聞いてみるみずき。 広い家、見るかぎりアキラはルードと二人きりだ。 「……いないよ。生きてるけど、オレに親はいない」 「え?」 少しの沈黙の後に出されたアキラの言葉を聞き返してしまう。 「ふっ親なんて必要ないってコト」 アキラは笑って、話しをすりかえる。 「みずきって、何歳だっけ?」 「…俺は、19……」 アキラの言葉も気になったが、質問に答える。 「へぇ、けっこう年上なんだ、じゃもうすぐBOUS卒業だな」 「あぁ」 「いいなぁ、オレは、まだまだ……。ユウって演技うまいんだから、役者にでもなればいいのにな…」 「いや、いい」 目立つ仕事はしたくないみずき…ぽつりと答える。 「なんでー、もったいねー。そうだ、今度演技オレに教えてくれよ。オレへただからさ」 そう笑顔を見せるアキラ… 「……あぁ…」 アキラに頼まれて嬉しいみずき、自然と笑顔を見せる。 「ありがと、そろそろ寝ようぜ、明り微灯つけとくから…平気?」 立ちあがりながらみずきに向かって言う。 「あぁ、大丈夫だ、すまない…」 みずきも煙草をケースに入れる。 「なら、行こう」 アキラは先に部屋に入り、明りをつける。 みずきも続いて入って、自分用の布団へたどりつく。 アキラは明りを中程度におとして、布団に入る。 「今度こそ寝ろよ、おやすみ」 最後にそう言って…。 「あぁ、おやすみ…」 静かに答えて、布団に入るみずきだった。 《否運の束縛》終

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