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第47話

「いい天気だな…、んー。気持ちいい…」 アキラは答えられないみずきを気にするでもなく、窓を開け空を見上げ、背伸びをしている。 「…アキラ」 そんな様子に和んで名前を呼んでしまう。 「ん?お前も朝の空気吸えよ、煙草なんかよりうまいぜ?」 そう、手招きして促してくる。 「…あぁ、アキラは煙草、嫌いなのか?」 誘われるまま、少しだけアキラに近づくみずき… ぽつりと聞いてみる。 「ん?…嫌いってワケじゃないけど…カラダに悪いだろ?」 近づいたみずきを見上げ、手を伸ばし…みずきの胸元をトントンっと軽く叩くように触れながら言う。 「……」 そんな…何気ない仕草でも、みずきの心はドキッとしてしまう。 アキラはみずきの心情など気付きもしない… そのまま…窓際にみずきを残して布団の近くまで戻るアキラ。 「…あー、布団、片付けないとな…」 そして、やれやれと独り言のように呟く。 「俺が片付けるから…」 そんなアキラに優しく声をかけるみずき。 「ホント?助かるよ」 アキラは振り返り、ニコっと微笑む。 「いや、俺が泊まるために出したものだから」 その笑顔にも、どきっとさせられながら… その心の動きを悟られないように、平静を装い答えるみずき。 「じゃ、ここに持ってきてくれる?」 「あぁ…」 みずきは軽々布団を片付けていく。 その様子を、少しだけ羨ましい気持ちを交え見ている。 そんなことは決して表に出さないけれど…。 「サンキュ、みずき今日仕事?」 みずきが片付け終わると、微笑んで声をかける。 「あぁ」 「時間は大丈夫なのか?」 「あぁ、まだ平気だ…」 頷くみずき。 少しでも一緒の時間を過ごしていたいと…胸の内で思いながら… 「ならオレ顔洗ってくるから、食事ができるまでゆっくりしてろよ」 「ありがとう…」 つかの間のアキラとの会話を、緊張しながら、それでもアキラが普通に話しかけてくれるので、二人きりを重く感じることもなく過ごせた。 欲をいえば、もう少しだけ…アキラと二人だけの時間が長く続いてくれたら… アキラの部屋でぽつりと思ってしまう。 しばらくすると、アキラが部屋に戻ってくる。 顔を洗って、すっきりした様子のアキラ… みずきの存在をあまり気にせず、学校へ行く準備をしている。 「よし、OK!あとは制服…」 独り言を呟きながら… クローゼットから高校の制服を取り出す。 「着替えるのか?」 みずきは、ハッとして聞く。 「そう、平日だから、学校あるしな…」 アキラは面倒くさそうに言うと、やはりみずきの存在など気にせず着替え始める。 「あ、俺は、出ていようか?」 パジャマを脱ぐアキラに慌てて言ってしまうみずき… 「は…?何言ってんだよ、男同士だろ?」 アキラに呆れたように言われてしまう。 「そ、そうだな…」 好意を言う感情を隠していて、後ろめたい気持ちになり… しまったな…と、俯くみずき… 「……?ユウせんぱい…」 アキラは訝しく首を傾げたあと、不機嫌なふりをして…みずきをネームで呼ぶ。 「えっ…」 「いくらオレがBOUSで受専だからって、勘違いするんじゃねーぜ、ひどい侮辱だ…」 やや微笑みながら、意地悪く言い詰める。 「す、すまない…そういうつもりでは…」 みずきは、密かに想いを寄せるアキラの着替え姿を見ているのが恥ずかしいというか… 平常心でいられなくなりそうだから、退室を願い出たのだが… アキラには、見た目と性別を馬鹿にされたように受け取られてしまった… みずきは、かなり慌てて謝るが… 「ふふっ、すごい真面目、おもしろー」 当の本人はそれほど怒っていなくて、ただ、みずきの反応を面白がっているだけだった。 「……」 からかわれただけだが、みずきにとってはアキラにこれ以上嫌われることが一番怖いので…冗談で流してもらえて、ホッと心の奥で安堵する。 せっかく、これだけ近づくことができたのだから…この距離を大切にしたいから… たとえ好かれていなくても… もう二度とここへ来ることはないだろうけど… アキラが自分に笑いかけてくれているうちは幸せだから… 伝えられない想いを胸へ閉じ込めて… その心を偽ったままでも…近くに居たい…。 アキラの瞳をまっすぐ見つめることはできないけれど… 確かに自分はアキラのことを… 愛しているのだから……。 《秘めたる想い》終

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