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第48話《少しの変化》※
11月3日。
BOUS撮影所に出勤するアキラ。
罰撮影があってから初めての撮影。
「おはようございます」
打合せ室にギリギリで入る。
「……」
すでにみずきは来ていて、椅子に座って様子を見守る。
「サクちゃん」
すぐトオル監督に呼ばれる。
「はい、すみません」
撮影をサボったのでまず頭を下げて謝る。
「サクちゃん、撮影を無断で休むということはその日の撮影スケジュール全てが狂うということ、助手にも監督にもその後の発売スケジュールにまで迷惑かけるんだからね、勝手は許されない、分かる?」
「はい」
おとなしくお叱りを受ける。
「色々事情があると思うけど、先に社長に相談して、ちゃんと話をつけて、現場に迷惑をかけないこと、もう一度、心に刻んでおいて、罰撮影とともに」
「はい、すみませんでした」
自棄になったとはいえ、皆んなに迷惑をかけたのは確かだから、素直に謝る。
「はい、説教はここまで、サクちゃんだってもう罰撮影はこりごりでしょ」
そうトオルは笑顔を戻す。
「はい、タツに会いたくない」
苦い顔をして本音をポツリと呟く。
「ね、じゃ撮影頑張って」
「はい」
頷き、見守っていたみずきのもとへ。
「お疲れ様、今日よろしく」
みずきの隣に座り、声をかけるアキラ。
「…あぁ、よろしく」
来てくれてほっとしながら、挨拶を返す。
「ちゃんと来たよ、まぁ相手お前だし罰撮影ヤだし」
そう苦笑い。
「良かった」
一泊したこともあって、以前より打ち解けたように話しかけてくれるアキラへ、小さく微笑むみずき。
しかし撮影内容は笑えない。
「はぁ、やっぱ強姦ものか」
アキラは台本を開き、ため息が漏れる。
「シリーズだからね、結構人気なんだよ」
説明担当の助手は話しながら向かいの席に座る。
「はぁ」
ため息をつくアキラを促す助手。
「さ、撮影の注意点いうから」
「はーい」
その後、助手から撮影の説明を受けて、2人で台本チェックに移る。
「あー、ここ難しいな、NGだすかも」
「カメラの位置近いな」
アキラの股の下から固定カメラ撮影…
「逃れながら後ろ向きでカメラの真上で止まる、って無茶だろ…」
「俺がフォローするから」
「マジ?なら、なんとかなるかな、お前上手いし、」
そう褒める。
「いや…」
「信頼してるぜ、ユウセンパイ」
からかうように笑って囁く。
「……」
アキラに信頼しているなどと言われたら、嬉しくて言葉に詰まる。
アキラはからかいのつもりでも、信頼に応えようと頑張ろうと思うみずき。
好きな人には、少しでもいい印象でいたいから、助けられるところは助けたい。
たとえ、この想いが通じなくても…。
隣で微笑むその人に、胸の内で誓うみずきだった。
《少しの変化》終。
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