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第49話《風邪の悪戯》

11月なかばの日曜日。 時刻は、夜の9時すぎ。場所は、BOUSの中。 みずきは、撮影を終えてシャワーを浴び、4Fの個室へ向かう所だった。 階段を登ろうとして、裏から聞こえたかすかな声に動きを止める。 「相手しろよ、サクヤ!」 アキラを誘う性優ケンジの声。 「あーだから、本ト、今日はかんべんしてください…からだ、ダルいんスよ…」 「俺の誘いは受けられないって?面倒くさそうに言いやがって…」 「別にそういう訳じゃ…」 (風邪ひいて頭痛てーし、撮影して疲れてんのに相手できるかよ…) 頭で思い逃れようとするアキラ。 ケンジは、怒りながら、アキラを壁に抑えつける。 「待てよッヤらせろ、サクヤ!」 抵抗するアキラにかまわずキス。 「ん、ちょッ…嫌だって…っ」 そして、アキラの抵抗も聞かず、服の中にも手を入れ触っていく。 「っもォ…ッ」 抑えられ、逃げるすべを失ったアキラは、抵抗する事を諦めてしまう。 (くそっやっぱりヤんなきゃダメか…はぁ、ツイてねぇ…) 心で思った次の瞬間――。 ……ダンッ!! すぐ横の壁へ叩きつけた凄い音。 『っえッ!?』 ビクっと驚く二人。 「ユウ!?」 「ユウセンパイ!?」 ケンジも驚く… その音は、ユウ=みずきが手を壁に叩きつけた音だった。 みずきはケンジとアキラの間に割って入るようにし…… 「俺の方が先約だ…」 そう言うと、みずきはそのままアキラに口づける。 「んっ!?」 アキラもその迫力に動けないでいた。 唇を放してケンジを睨むみずき。 「あ、の、そのッ、すみませんッ!」 ケンジは相当ビビッて逃げ出す。 その姿を確認して…… 「行ったか…」 一言いい、そのまま行こうとする。 アキラもびっくりしていたが… 「あ、ちょっと待ってユウ!何でかしんねーケド、追い払ってくれて、さんきゅ。今日、オレ体調悪くて…な」 みずきをひき止めて言う。 「すっげー助かったから…助けたついでにもう少し付き合って」 「え……?」 乱れた服を直しつつ、少し頼むような口ぶりで言うアキラに、断る理由などないみずき。 コクンと頷く。 「悪りィな、ついて来てもらって、お前いると絡まれずに済むからさ」 にこっと笑って言うアキラ。 口調とは裏腹にかわいい顔。 風邪のせいか顔色はあまり良くない。 「いや…」 平静を装い答えるみずき。 「頭いてぇ…撮影日に風邪ひくなんてついてねぇな。今日の相手だったヤマトセンパイにうつらなきゃいいけど…」 「大丈夫か?」 「え?あぁ、ヤマトセンパイ?見たところ大丈夫そうだったケド…」 歩きながら答える。 みずきはアキラを心配して言ったのだが、勘違い…。 それでもいいか…と思うみずき。 不意に笑ってアキラは… 「でも、驚いただろーなぁケンジセンパイ、ユウ恐ぇって…しかも、『俺が先約』みたいな事、言われて…」 「おかしいか?」 身体が動くまま、とっさに助けに入ったので深くは考えていなかったが… 笑われて少し胸が痛くなる。 「いーや、ただ驚いただけ。お前、おとなしいのかと思ったら、結構ハデな事するんだって思って…」 そう言って前を歩いて行く…。 「……」 自分は…理由がある時しか…動くことが出来ないから… みずきは思いながらアキラの後ろ姿を見つめる。 「…っ」 不意にガクっと態勢を崩す。 「!!」 慌ててアキラが倒れる前にしっかり身体を支えるみずき。 アキラの額から汗が流れ落ちる。 「……おいッ」 そのまま動かないアキラを見て、強く呼ぶ。 「ぁ、あぁっゴメン!も、平気…」 そう謝って離れるアキラだが、歩きたくても身体が重く動かない。 廊下の壁にもたれかかり息をつく。 「…アキラ」 その様子を見て、心配になり静かに声をかける。 「……咳止めは、飲んだんだけどな、その分熱が出たみてー、…もういいから先、帰れユウ。オレちょっと歩けねーからな…」 そう言うと、うつむきズルズルと座り込むアキラ。 手だけ上げてバイバイする。 「ほってはおけない」 みずきは、そう言うと、その手をグイっと引き、アキラを抱きかかえる。 「う、わっ…オイッみずきッ!?」 熱でボーっとしている頭で必死に言う。 「ちょ…ハズカシイだろッ!」 子どものように抱えられ、慌てるアキラ。

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