49 / 82
第49話《風邪の悪戯》
11月なかばの日曜日。
時刻は、夜の9時すぎ。場所は、BOUSの中。
みずきは、撮影を終えてシャワーを浴び、4Fの個室へ向かう所だった。
階段を登ろうとして、裏から聞こえたかすかな声に動きを止める。
「相手しろよ、サクヤ!」
アキラを誘う性優ケンジの声。
「あーだから、本ト、今日はかんべんしてください…からだ、ダルいんスよ…」
「俺の誘いは受けられないって?面倒くさそうに言いやがって…」
「別にそういう訳じゃ…」
(風邪ひいて頭痛てーし、撮影して疲れてんのに相手できるかよ…)
頭で思い逃れようとするアキラ。
ケンジは、怒りながら、アキラを壁に抑えつける。
「待てよッヤらせろ、サクヤ!」
抵抗するアキラにかまわずキス。
「ん、ちょッ…嫌だって…っ」
そして、アキラの抵抗も聞かず、服の中にも手を入れ触っていく。
「っもォ…ッ」
抑えられ、逃げるすべを失ったアキラは、抵抗する事を諦めてしまう。
(くそっやっぱりヤんなきゃダメか…はぁ、ツイてねぇ…)
心で思った次の瞬間――。
……ダンッ!!
すぐ横の壁へ叩きつけた凄い音。
『っえッ!?』
ビクっと驚く二人。
「ユウ!?」
「ユウセンパイ!?」
ケンジも驚く…
その音は、ユウ=みずきが手を壁に叩きつけた音だった。
みずきはケンジとアキラの間に割って入るようにし……
「俺の方が先約だ…」
そう言うと、みずきはそのままアキラに口づける。
「んっ!?」
アキラもその迫力に動けないでいた。
唇を放してケンジを睨むみずき。
「あ、の、そのッ、すみませんッ!」
ケンジは相当ビビッて逃げ出す。
その姿を確認して……
「行ったか…」
一言いい、そのまま行こうとする。
アキラもびっくりしていたが…
「あ、ちょっと待ってユウ!何でかしんねーケド、追い払ってくれて、さんきゅ。今日、オレ体調悪くて…な」
みずきをひき止めて言う。
「すっげー助かったから…助けたついでにもう少し付き合って」
「え……?」
乱れた服を直しつつ、少し頼むような口ぶりで言うアキラに、断る理由などないみずき。
コクンと頷く。
「悪りィな、ついて来てもらって、お前いると絡まれずに済むからさ」
にこっと笑って言うアキラ。
口調とは裏腹にかわいい顔。
風邪のせいか顔色はあまり良くない。
「いや…」
平静を装い答えるみずき。
「頭いてぇ…撮影日に風邪ひくなんてついてねぇな。今日の相手だったヤマトセンパイにうつらなきゃいいけど…」
「大丈夫か?」
「え?あぁ、ヤマトセンパイ?見たところ大丈夫そうだったケド…」
歩きながら答える。
みずきはアキラを心配して言ったのだが、勘違い…。
それでもいいか…と思うみずき。
不意に笑ってアキラは…
「でも、驚いただろーなぁケンジセンパイ、ユウ恐ぇって…しかも、『俺が先約』みたいな事、言われて…」
「おかしいか?」
身体が動くまま、とっさに助けに入ったので深くは考えていなかったが…
笑われて少し胸が痛くなる。
「いーや、ただ驚いただけ。お前、おとなしいのかと思ったら、結構ハデな事するんだって思って…」
そう言って前を歩いて行く…。
「……」
自分は…理由がある時しか…動くことが出来ないから…
みずきは思いながらアキラの後ろ姿を見つめる。
「…っ」
不意にガクっと態勢を崩す。
「!!」
慌ててアキラが倒れる前にしっかり身体を支えるみずき。
アキラの額から汗が流れ落ちる。
「……おいッ」
そのまま動かないアキラを見て、強く呼ぶ。
「ぁ、あぁっゴメン!も、平気…」
そう謝って離れるアキラだが、歩きたくても身体が重く動かない。
廊下の壁にもたれかかり息をつく。
「…アキラ」
その様子を見て、心配になり静かに声をかける。
「……咳止めは、飲んだんだけどな、その分熱が出たみてー、…もういいから先、帰れユウ。オレちょっと歩けねーからな…」
そう言うと、うつむきズルズルと座り込むアキラ。
手だけ上げてバイバイする。
「ほってはおけない」
みずきは、そう言うと、その手をグイっと引き、アキラを抱きかかえる。
「う、わっ…オイッみずきッ!?」
熱でボーっとしている頭で必死に言う。
「ちょ…ハズカシイだろッ!」
子どものように抱えられ、慌てるアキラ。
ともだちにシェアしよう!