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第50話

「……」 その様子がかわいくて、つい眺めてしまうみずき。 「みっ」 名を呼ぼうとするが詰まるアキラ。 「あー…、ダメだ、怒る力もねーや…」 急に脱力して言う。 「んじゃ、個室の3号室まで連れていって…」 諦めて、みずきの好意を受けることにする。 みずきの首に腕を回して掴かまり…肩へ頭を預ける。 そして、早く行けとばかりにみずきの髪を引く…。 「あぁ、行こう…」 少し微笑み、歩き出すみずき。 ずっと、こうして居たい…そう思ってしまう。 3Fの個室部屋に着き、明りをつけてベッドへアキラを降ろす。 瞳が合って、アキラは… 「サンキュ」 そう、微笑みながらお礼を言う。 「いや…」 「あ、悪りぃけど、そこのカバンの横に置いてるケース取って…」 「薬か?」 ベッドサイドに座っているアキラに渡しながら聞く… 「そう、なんかすっげー頭痛てぇから。薬飲まねーと駄目…」 「しゃべらずに、寝ていた方がいいんじゃないのか?」 顔色の悪いアキラを心配して聞く。 「うーん、でも何もしてないと頭イタイばっかりだから話してる方が楽。そのうち、いつの間にか寝れてたりするから…」 そう答え、白い錠剤をふたつ、持っていたペットボトルの水で飲んでいる。 そしてみずきを見上げて…… 「ユウ、もういいから帰りなよ、仕事忙しいんだろ。オレに付き合わなくてイイからさ…」 「日曜は暇があるから…」 そう答えるみずき。 (少しでもアキラと、一緒に居たい…) 口には出せないが、付け足してそう思う。 「そ、ならいいけど…。オレ、ちょっと横になるから…」 アキラは言いながらベッドに寝転んでいる。 「あぁ、どうぞ…」 アキラは横になりみずきの方を向いて… 「お前も座っとけよ…ユウってさぁ、何でそんなに背伸びたんだ?」 「…俺は、両親が背が高いからな…遺伝だろう」 横になっているアキラの視線から逃げるように床に視線をむけ、椅子に座りながら答える。 「チっ、やっぱしDNAか…ムリなんだよなぁ…」 息をついて頭に手をあてるアキラ。 「どうした?」 「オレん家の家系チビばっかりだもんなぁ、平均でも160㎝、考えてみるとオレは伸びた方なんだよなぁ…」 「ふっ」 しみじみ言うアキラがおかしくて、つい笑ってしまうみずき。 「何だよ、笑うなって…真剣なんだから…」 「っすまない」 「はぁ…、これじゃぁルードに背、越されるのも時間の問題だな…」 みずきはアキラが言ったルードという言葉に少し反応する。 (忘れていた訳じゃないけれど、アキラの中ではルードが一番で…他はないんだ…) 思うと辛くなるみずき。 だか、すぐ考えを打ち消す。 ルードが居ても居なくても自分に可能性などないのだから…。 今目の前にいる人物の笑顔が見れたらそれでいい。 強く自分に言い聞かす。 アキラは目の上に手を置いて顔を隠すように横になっている。 息使いはゼィゼィとあらく、時折咳をする。 「……本ト、帰っていいぜ、風邪、うつるといけねーし……」 ぽつりとみずきに言う。 「人の事より自分の心配しろ…」 「…う、ん?」 みずきの言葉に、あいまいに答えて何も話さなくなるアキラ。 それで、心配になってくるみずき。 大丈夫なのだろうか……? 静かになって10分ほど経つ。 みずきは、つい声をかけてしまう。 「アキラ?眠ったのか……?」 顔を隠しているが反応はない。 顔を隠す手をそっと避けて、額の汗を拭いてやる。 その動きにも目を覚ます気配はない。 まだ苦しそうな呼吸をしている。 「……」 (なぜこんなにも…魅かれるのか) アキラの熱い額に手を当てる。 そのまま髪をすいて頬へ触れる。 「……っ」 やはりキスしてしまいそうな衝動にかられ、頭を振るみずき。 アキラが気付かない場でしか、触れる事も出来ない自分に…怒りと悲しさ、情けなさが、こみ上げてくる。 弱い自分。 けれど、想いを打ち明けることは出来ない。 アキラは…アキラの好きな人は、ルードなのだから。 今こうして話せることを壊したくない。 頬から手を放し、アキラの顔に浮かぶ汗を拭いていくみずき。 ……アキラが眠ってからずいぶん時間が経った。 呼吸もさっきに比べたら楽になっている。 「11時前か…」 時計を見る。 夜遅くなったら高校生のアキラは明日学校なのでは… 起こした方がいいのだろうか……

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