50 / 82
第50話
「……」
その様子がかわいくて、つい眺めてしまうみずき。
「みっ」
名を呼ぼうとするが詰まるアキラ。
「あー…、ダメだ、怒る力もねーや…」
急に脱力して言う。
「んじゃ、個室の3号室まで連れていって…」
諦めて、みずきの好意を受けることにする。
みずきの首に腕を回して掴かまり…肩へ頭を預ける。
そして、早く行けとばかりにみずきの髪を引く…。
「あぁ、行こう…」
少し微笑み、歩き出すみずき。
ずっと、こうして居たい…そう思ってしまう。
3Fの個室部屋に着き、明りをつけてベッドへアキラを降ろす。
瞳が合って、アキラは…
「サンキュ」
そう、微笑みながらお礼を言う。
「いや…」
「あ、悪りぃけど、そこのカバンの横に置いてるケース取って…」
「薬か?」
ベッドサイドに座っているアキラに渡しながら聞く…
「そう、なんかすっげー頭痛てぇから。薬飲まねーと駄目…」
「しゃべらずに、寝ていた方がいいんじゃないのか?」
顔色の悪いアキラを心配して聞く。
「うーん、でも何もしてないと頭イタイばっかりだから話してる方が楽。そのうち、いつの間にか寝れてたりするから…」
そう答え、白い錠剤をふたつ、持っていたペットボトルの水で飲んでいる。
そしてみずきを見上げて……
「ユウ、もういいから帰りなよ、仕事忙しいんだろ。オレに付き合わなくてイイからさ…」
「日曜は暇があるから…」
そう答えるみずき。
(少しでもアキラと、一緒に居たい…)
口には出せないが、付け足してそう思う。
「そ、ならいいけど…。オレ、ちょっと横になるから…」
アキラは言いながらベッドに寝転んでいる。
「あぁ、どうぞ…」
アキラは横になりみずきの方を向いて…
「お前も座っとけよ…ユウってさぁ、何でそんなに背伸びたんだ?」
「…俺は、両親が背が高いからな…遺伝だろう」
横になっているアキラの視線から逃げるように床に視線をむけ、椅子に座りながら答える。
「チっ、やっぱしDNAか…ムリなんだよなぁ…」
息をついて頭に手をあてるアキラ。
「どうした?」
「オレん家の家系チビばっかりだもんなぁ、平均でも160㎝、考えてみるとオレは伸びた方なんだよなぁ…」
「ふっ」
しみじみ言うアキラがおかしくて、つい笑ってしまうみずき。
「何だよ、笑うなって…真剣なんだから…」
「っすまない」
「はぁ…、これじゃぁルードに背、越されるのも時間の問題だな…」
みずきはアキラが言ったルードという言葉に少し反応する。
(忘れていた訳じゃないけれど、アキラの中ではルードが一番で…他はないんだ…)
思うと辛くなるみずき。
だか、すぐ考えを打ち消す。
ルードが居ても居なくても自分に可能性などないのだから…。
今目の前にいる人物の笑顔が見れたらそれでいい。
強く自分に言い聞かす。
アキラは目の上に手を置いて顔を隠すように横になっている。
息使いはゼィゼィとあらく、時折咳をする。
「……本ト、帰っていいぜ、風邪、うつるといけねーし……」
ぽつりとみずきに言う。
「人の事より自分の心配しろ…」
「…う、ん?」
みずきの言葉に、あいまいに答えて何も話さなくなるアキラ。
それで、心配になってくるみずき。
大丈夫なのだろうか……?
静かになって10分ほど経つ。
みずきは、つい声をかけてしまう。
「アキラ?眠ったのか……?」
顔を隠しているが反応はない。
顔を隠す手をそっと避けて、額の汗を拭いてやる。
その動きにも目を覚ます気配はない。
まだ苦しそうな呼吸をしている。
「……」
(なぜこんなにも…魅かれるのか)
アキラの熱い額に手を当てる。
そのまま髪をすいて頬へ触れる。
「……っ」
やはりキスしてしまいそうな衝動にかられ、頭を振るみずき。
アキラが気付かない場でしか、触れる事も出来ない自分に…怒りと悲しさ、情けなさが、こみ上げてくる。
弱い自分。
けれど、想いを打ち明けることは出来ない。
アキラは…アキラの好きな人は、ルードなのだから。
今こうして話せることを壊したくない。
頬から手を放し、アキラの顔に浮かぶ汗を拭いていくみずき。
……アキラが眠ってからずいぶん時間が経った。
呼吸もさっきに比べたら楽になっている。
「11時前か…」
時計を見る。
夜遅くなったら高校生のアキラは明日学校なのでは…
起こした方がいいのだろうか……
ともだちにシェアしよう!