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第51話
迷いながらも、起こす事に決める。
さすがに、眠っているアキラを起こすのは気がひけたが、聞くため声をかけるみずき。
「…おい、もう11時だが…おい!」
「……」
肩を揺らして起こすみずきだが、アキラは反応がない。
心配して、顔を覗きこむ。
「…う、ん、……なに?」
不意にボソっと言ったかと思うと、アキラは何を思ったかみずきの首に腕をまわし軽く引き寄せる…。
「!!」
そして、瞳を閉じたまま、乾いた唇を重ねる。
その行動にドクンと心臓が鳴るみずき。
目を見開いてしまう。
すっと瞳を開けたアキラは…
「…!!あッ!ユウっ!?わりッオレ、寝ボケ痛ッ!」
みずき以上に驚いたのは、寝ボケてキスしたアキラ…
ガバッと急に起きて、ぼー然としているみずきの頭と衝突する。
「ッイテテ…」
頭を抑えて、くぅ~っと痛がるアキラを見て笑いが込み上げる。
「……ハ、ハハハッ」
小さく笑ってしまう。
「ッテ、大丈夫か?悪りィ、寝ボケてて…今日の撮影でさっきみたいなシーン3回もNG出しちまってさぁ…頭に残ってたんだ、ゴメン」
言いワケを言うアキラを知り目に、笑い続けているみずき。
ぶつかった頭もズキズキ痛むが、それ以上に、喜んでいる自分…
理由なんてなんでも良かった……
ただ、アキラからのキスが……
「オイっそんなに笑うコトねーだろっ!」
少し怒って言うアキラ。
「フ…すまない」
なんとか笑いを止める。
「で、なに?」
首を傾げ、短く聞き直す…
それを見て、息を整え答えるみずき…
「あぁ、もう11時がくるから家に帰らなくていいのかと思って…」
「えっもう11時?さんきゅ!起こしてくれて、帰らねーとな。あ、ちょっと、カバン取って…」
「はい」
完全にアキラの言いなりのみずき…
「サンキュ」
お礼を言いカバンから携帯電話を出してかけている。
『はい、楠木です』
「あ、?アレ!?コウジ…帰ってたのか」
自宅へかけて予想外の人物が電話に出て驚いているアキラ。
『うん、明日学校休みなんだ…』
「へー、いいなぁおまえ…」
『アキ兄こそ、また風邪ひいたの?声変だよ?』
「そーなんだよな…でも良くなった方だぜ…」
『そう。アキ兄、何時頃帰る?』
「12時までには帰るよ。ルードは?」
『寝てるみたいだけど…』
「やっぱり…」
『ルード君カレー作ってるみたいだよ、食べる?』
「うーん、少し食うよ…」
『じゃ早く帰ってね、アキ兄…』
「おう、じゃ」
電話を終えてみずきを見て聞く。
「お前これからどーする?ルードがカレー作ってるから食う?」
「…いや」
断るみずき、出来るかぎりアキラとルードが仲よくしているのを見たくないから。
気にした様でもなく言葉を出す。
「そ、まぁ今日はケンセンパイから助けてくれて、ありがとな。この借りは、いつか返すよ…」
携帯電話をカバンに片付けながら言う。
みずきは聞きにくいが、気になっていた事を聞いてみる。
「なぜ…」
「え?」
「なぜオマエは助ける前、逃げるのを諦めたんだ?」
「……」
アキラはそれを聞いて少し無言になる…
「ケンジから本気で逃げようと思えば逃げれる状況だった…」
「なんだ、そんな事か…ま、普通なら逃げれるだろーケド、オレは無理なんだよ」
そう軽く言い返す…
「どうして…」
みずきの問いに少し考えて答える。
「…誰にも、言うなよ。お前だから言うけど、オレ、病気なんだよ…身体に思うように力が入らないびょーき。うつりゃしねーよ」
「えっ?」
驚いて固まるみずき…
「だから、センパイから逃げられなかったんだよ」
「……」
そんなこと、急に言われても理解が出来ない。
それを見てアキラは、みずきに…
「ちょっと腕かしてみな……」
言われた通り腕を出す。
アキラはその手首を掴み、みずきをぐいっと引っ張ろうと手を引く。
が、ズルっとみずきの手首からアキラの手だけが、すり抜ける。
「ほらな、握力がねーから、人も引っ張れねぇ…」
納得したように、頷き笑いながら続けて言う。
「無理したら出来ない事はないけど、後で身体が麻ヒしたりするし、野球のバットとか振れないんだぜ。振った後、飛ぶんだよバットが、危ないのなんのって…」
少し苦笑いするように話し続けている。
「……」
黙ってアキラの話に聞き入ってしまう。
「マジ、他のヤツには絶対言うなよ…お前は弱みにつけこむよーな事しないと思うけど、ヨシなんかにバレたら終わりだぜ…」
やれやれという感じで念を押す。
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