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第52話
「…あぁ、言わない…が、本当に?」
アキラがそんな病気を持っていることを信じたくなくて…ぽつりと聞く。
「信じてねーのか?」
そう無表情で言うとアキラはもう一度みずきの手首を持つ。
「オレの本気の力で握るから、見てろよ」
ぐっと手に力を入れるアキラ。
手が震えるほど、おもいっきり。
しかし、みずきには、痛みもない、ただ掴まれているだけのように…アキラは唇を噛んで、顔も本気を出しているのがわかる。
「……ッ」
そんな、アキラの様子を見ていられなくなり…
「ッもういい…わかった…」
アキラの手を持って止める。
アキラは視線を落とし、吐き捨てるように続けて言う。
「ッ本当、悔しくなるよなッ、出来損ないの上にこんなハンデまでつきやがって…どうせなら女に生まれてくれば良かった、そーすりゃバカにされる事もねーだろうし、こんな仕事もしなくてすむ…」
はじめて見せる雰囲気のアキラにみずきも驚く……
「…アキラ」
不意に瞳が合うとアキラは急に笑いはじめる。
「くくっハハハハッ…何言ってんだろ、オレ。熱のせいでおかしくなってるんだろーか……忘れろよ、バカみてー…」
かすれた笑いを続けながら言っている。
「アキラ…」
「えー?」
みずきはやさしくアキラに声をかける。
さっきのアキラの言葉……
おかしくなったんじゃない…アキラの本心だ。
目に見えるハンデ――。
目に見えないハンデ――。
自分自身と戦った…そして、今も戦う真実…ずっと。
みずきはそっと近づき、アキラの瞳に溜まる涙の雫を拭い、言葉を出す……
「俺はお前を出来損ないとは思わない、外見や能力なんかより、もっと大切なものがある…お前には…」
やさしく伝えるみずき。
「忘れろって言ってるのに、おせっかいな奴だなー、でも、さんきゅ、わかってるよもー、お前がそんなだから何でも話ちまう、安心できるつーか…」
頷きながら続ける。
「だから、ヨシも頼っちまうんじゃねーかな、そう言う雰囲気あるからユウは、他の奴とは違うよなぁ」
「…別に違いはしない」
軽く頭を振り答えるみずき。
考え方も、求めるものも他と変わらない。
ただ、実行に移す勇気が足りないだけで…。
「違うぜ、こうして二人っきりで居るのに、エッチ求めてこないだけでもすごい気が楽…。お前くらいだもん、同業者で話せる奴」
確信に満ちた顔で言うアキラに言葉がでない。
「……」
「でも、いまいちわかんねーんだよな…」
首をかしげる。
「ここの奴ら、キスとかSEXとかすると喜ぶけど、お前は何が嬉しい?ユウはエッチな噂、聞かねーし……」
アキラは、困ったように考えている。
「今日の礼、何しようか…?」
アキラの言葉に、ドキドキしてしまうみずき。
頭を振って考えを打ち消し、違う言葉を言う。
「礼なんかいい…」
断るみずきを見てアキラは……
「そう言う訳には…」
言いながら急にみずきの顔へ指を触れさせて、左耳の上の髪をかき上げる。
「!!」
「なーんだ、ピアスあけてねーの?んじゃ、これやるよ…」
そう言うと、みずきから手をひき、カバンを探っている。
みずきはアキラに触れられる度、胸が高鳴ってしまう。
アキラは、カバンから銀に光る物を取り出した。
「はい、腕時計なんだけど、ほとんど使ってないし、今日買ったピアスもあったんだけどな…」
などと言い渡してくる。
見ためからしてもかなり高そうだ。
「アキラ、これは…」
驚き返そうとするが…
「いいって、やるよ。今日助けてくれた礼」
軽く言うアキラ。
「でも、これは、お前の…」
「オレのだから……オレがやるってんだからいいんだよ!みずきは金より銀の方が似合いそうだし、オレには大きいんだ、その腕時計」
強引に渡す。
みずきは複雑な思いで受け取る。
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