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第54話《束縛の鎖》

見ためにも肌寒くなってきた11月の終わり頃。 みずきはいつものように仕事までの時間を自宅で過ごしていた。 コンビニ店員をふたつかけもちで働いているみずき。 昼間の仕事は終わって、次は夜間の仕事だ。 昼は8時間、夜は4時間、働いている。 時刻は夕方の5時、コンビニの仕事までは、まだ時間がある。 椅子に座ってPC関係の雑誌に目を通している時。 珍しく静かに戸がノックされる。 (誰か来た?) 押し売りか何かかと思いながら戸を開けるみずき。 「はい」 「あ、居た居た。よう、生きてるな…」 その、目の前にいる人物に驚きを隠せないみずき。 そこには、学校帰りなのか茶色のブレザーを着たアキラが立っていた。 「何だよ?オレが来ちゃ悪い?」 みずきの様子を見て、ちょっと不機嫌になるアキラ。 「あ、いや…」 「上がっていい?」 みずきのアパートの中を見ながら聞いてくる。 みずきはびっくりしながらも、突然の嬉しい訪問者を頷き招き入れる。 「ど、どうぞ、狭いけど…」 なぜそんなに驚いているかと言うと、アキラがみずきの家を訪れる事などほとんどなかったからだ。 「ホントはルードが来るはずだったんだけどな…、学校遅くなるからって代わりに行ってくれだって、ルードの奴」 部屋に入りながらボソッと話すアキラ。 「あぁ…」 みずきはアキラを見ながら応える。 ルードはたまにだが、様子を見にみずきの所へ来て、ご飯を作ってくれたりするのだ。 「わざわざ行くのもって思ったけど、ルードの頼みだし…、お前の様子も気になってたしな…」 「……」 「なんか食った?」 不意に聞くアキラ。 みずきは… 「いや、まだ」 反射的に答える。 「じゃ、何か作ってやるよ、どーせカップメンとかしか食ってねーんだろ?」 「えっ?」 アキラの言葉に、さらに驚くみずき。 「なんだよ、ルードには負けるけど、オレだって料理くらいできるぞ!一人暮らししてたんだから…」 そう言うとアキラは勝手に作りはじめる。 材料は持ってきているようだ。 「あぁ。ありがとう」 マイペースなアキラに戸惑っていたが、なんとか落ち着き、お礼を言う。 「いいって、お前、仕事ある?何時から?」 ここに来て初めて笑顔を見せるアキラ。 「あぁ、19時からだが…」 「ふーん、まぁ、無理するなよ」 深く考えずに言うアキラだが、みずきはアキラの、その言葉が嬉しくて笑みを浮かべる。 しばらくして、アキラはチャーハンを片手に持ってやってくる。 「はい、食え。チャーハンだから食えるだろ」 「あぁ、アキラは?」 自分の分しかないので聞いてみるみずき。 「ん?オレいらねぇ。マズかったら残していいからな…」 「あぁ、いただきます」 「どーぞ…」 もう二度と食べられないかもしれないアキラの手料理を勿体ない気持ちで食べはじめるみずき。 一口食べてみると、意外に美味しかった。 瞳が合い…。 「うまいよ…」 感想を伝える…。 「そ、ありがとな…」 少し照れ笑いをするアキラ。 そんな姿にドキリとしながらも食事に集中する振りをして平静を装う… そして、食事をおかわりしたいくらいの気分でキレイに食べ終わるみずき。 「へー、PC関係好きなんだな…」 置いてある雑誌をみてアキラが言う。 「あぁ、でもPCないから本だけ見てる」 「なんだ、言ってくれれば、PC三台くらいうちの2階にあるのに…」 「すごいな」 「そっか?まぁ、オレが買ったんじゃねぇけど…使いたいなら使わせてやるから」 「あぁ、すまない」 軽く頭を下げるみずき。 「謝るなって、お前謝り過ぎ、癖なのか?謝るの」 「え?そうか?」 「そう!あんた年上なんだから堂々としろよ、謝るの禁止な」 なんとも強引な性格。 そこに惹かれたりもするのだけど…。 「あぁ、すまな…あ」 指摘されたばかりなのに、謝ろうとしてしまうみずき。 それを、じとーっとアキラに見られて、また謝ろうとしてしまう。 ……本当に癖なのだろうか? 「ふっ、おもしれぇ奴」 困っているみずきを見て、不意に笑いだすアキラ。 「そ、そうか?」

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