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第56話

小さく呻くみずき。 隣の部屋の会話に耳を傾けていたアキラの前に、急に現れた男。 体型はみずきに似て細身、長身。 見た目は、19歳の息子がいるとは思えないほど若く見える。 (あれがユウの親父か…まったく手加減なしだな…) 「ッ!俺はッ母さんじゃないんだッ!…父さん!」 「黙れッ!」 バシッと今度は平手打ちが飛ぶ。 (かあさんじゃない…?) アキラは、その言葉の意味が、はじめは分からなかった。 みずきは、殴られ抑えつけられ、口をテープで覆われる。 逃げようとするみずきの頭をおもいきり床へ叩きつけるナオキ。 ドッ、とすごい音がして、みずきは一瞬動きが止まる。 アキラも驚き、声を出してしまいそうになる。 その間に、父親は戸を閉め、部屋をまっ暗にする。 アキラには、この光景は見えなくなった。 音だけが伝わってくる。 「ユウカ…」 第一声は父親の声。 (ゆうか?) 「愛している…」 (……!!) 続いて聞こえてきた声に、これから起こる事が予想できたアキラ。 「うっ、ゥ…ッ」 身体に触れられ、服を脱がされる。 「……ユウカ」 何度も呼ばれて、苦しくなる。 「ッぅ…ぅ」 (俺は母さんじゃない…) 心の叫びも、目の前にいる人物には通じなくて…。 「…ッん、ぅ痛」 入ってくるものも苦痛しか生まない…… 逃げたい……いつも思うが身体が動かない……。 もう限界、と言う時になっていつも、それは起こる……。 やはり、父のモノが抜けて、代わりに拳が下腹部へ、ドスッとにぶい音を立てて入る。 「う゛ッ…」 痛みに呻くみずき。 アキラもその変化を読み取る。 (殴られた!?) 「ッなんでお前なんだッ!!」 ナオキはさらに殴り、蹴っている。 いつもの言葉を吐き捨てるように言い、みずきに暴行を加えたあと、無言で去っていく父親。 みずきは呼吸を困難にしていたテープを、まず取り外し、咳こむ。 「けほっゴホッ」 アキラはすぐクローゼットの中から出てきて声をかける。 「大丈夫か…?ひどいな、ちょ…」 さっきの様子をみて、言葉が続かないアキラ。 暗闇で震えている身体を見て、まず… 「あ、明りつけようか?」 そう言って行こうとするアキラだが… 「ッ待、って!…ケホッ、こほッ」 咳込みながら止めるみずき…。 「え?」 「…見られたくない」 (お前に情けない俺の姿は……) 「……わかったよ」 そう言って顔を近づけてくるアキラに驚くみずきだが…。 「……呼吸音が正常じゃない」 呼吸を調べていただけだった。 詰まったような、ヒューヒューという呼吸をしているみずきに気づいてアキラは… 「少し頭下げて」 指示的に言って、みずきの背骨をさぐり、中心を両手で強めに叩く。 「かはッ、ケホッコホッ、っ」 詰まっていたものが出されるように咳をするみずき… 「少しは呼吸、楽になったか?」 静かに聞くアキラ。

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