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第57話

「あぁ、すまない……」 俯いて言葉お返す。 「それは禁止だろ、すまないって」 アキラは静かに言う。 「そうだったか…」 またも静かに答えるみずき。 アキラはその辺にあったタオルケットをかけてやる。 「ありがとう…これが、俺が暗闇を恐れる本当の理由、今まで…9年間続けられた行為だ…」 アキラに一番知られたくなかったことを知られ… これで好かれることは完全に無くなった、と絶望感と劣等感に苛まれながら… 俯き、重い気持ちで話だす。 「……ゆうかって?」 一応聞いてみるアキラ。 「俺の母親の名前。9年前に離婚して、今は他の県に住んでいる…」 「じゃぁ、親父は、お前の事、妻だと思ってヤってんのか!?」 驚いたように聞く。 「……あぁ、いつも気付けば俺を殴って出ていく」 「おいおい、なんで?」 その理由が理解できず聞き返す。 「俺が母さんに似ているのもあるんだろうけど……あの人、薬やってるんだ、幻覚を見てるんだよ……」 無表情で答える。 狂ってしまった父に… それを止めることすらできない自分… 「それって犯罪だぞ…」 「そうだな」 助けられるものなら助けたい、あの哀れな人を… どうすればいいのか、わからない。 「そうだなって……」 それでいいのかよ、と顔を歪めるアキラ。 みずきは… 「悪いが、服を取ってくれ…」 話から逃れるように、アキラの足元にある自分の服を指していう。 「あ、あぁ」 少し落ち着いたのか服を着はじめるみずき。 「おい、大丈夫か?」 ヤられて暴行を受けて、5分もたたず動きだすみずきに声をかける。 「大丈夫」 などと返ってくるが、大丈夫なワケねーだろ!と思うアキラ。 みずきは立ち上がり歩いて行こうとするが、腹部痛、後頭部の痛みも消えない…。 歩くと身体にズキっと痛みがはしり、その場にうずくまる。 「ッ…」 「おい、無理するなよ…」 みずき肩に触れようと声をかけ触れる。 しかし、みずきは… 「っ触るなッ!」 反射的に強く言い、アキラの手をハネ除けてしまう。 「あ、ごめん」 反射的に謝るアキラ。 暗闇が苦手な相手に後ろから近づくのは軽率だったな……と思いなおして、次の言葉を探す。 しかし、みずきはアキラに対して、そんな事を言ってしまった自分自身にとても驚き、怒りが込みあげてくる。 (アキラは、心配して来てくれただけなのに…自分はなんて事を言ってしまったんだ…) 「すまない…俺は…」 混乱しながらも、俯いて言葉をだす。 「いや、悪いのはオレなんだ、びっくりさせて悪かったよ…」 責めもせず、逆に謝ってくる。 「も、電気つけていいだろ?」 「……」 その優しさが痛くて、余計苦しくなるみずき… 無言で頷く。 アキラは、明りをつけながら… 「やっぱ、暗いとケガの様子とか、わかんねぇから」 そして近づいてくる。 「ちょっと顔上げて…」 顔を上げたみずきの口元を、白いタオルで拭いている。 吐いた血が少し付いていたのだ。 「動くならまず、手当してからにしろよ」 不安定な精神状態になり… 声だけかけて行こうとするアキラをみて、もう触れてもらえないのかもしれないと思ってしまうみずき……。 みずきは離れていくアキラの腕を、ぐいっと引く。 急に腕を引かれ、アキラは何かと、振り返ってみる。 その瞬間、渇いたみずきの唇が、アキラの唇と重なる……。 「!!」 さすがに驚くアキラ… 「あ、あのー、撮影と違いますよー」 誤魔化すように、わざとそんなことを言ってみる…… 「そうか……」 にっこり笑われて、つられて笑うみずき……。 「おとなしくソコにいて、タオルぬらしてくるから……」 みずきの肩をポンポンと叩いて立ち上がるアキラ。 みずきは、隣の部屋へと消えていくその後ろ姿を見つめつつ、今、アキラに触れた唇に指を触れさせる。 なんとも言えない複雑な気持ち……。 そしてすぐ手を放し、みずきは立ち上がり…この部屋を後にする。 みずきが出てきたのに気付いて… 「あー、ったく!おとなしくしてろって…」 言って近づき… 「はい、このタオルで口元抑えて、早くカタ取れるから」 そう勧める。 みずきは言われるままに、口を抑える。 「せっかく服着たトコ悪ィけど、怪我の様子みるから、上だけ脱いで…」 「……」 言われるまま、上半身裸で椅子に座るみずき。 アキラは白い袋を持ってきて、みずきの怪我の様子を見る。 「うーん、ハデにやられたなぁ…でもコッチは大丈夫、深くないから…」 ポソポソ言いながら… 「問題はここだな、ここからここまで…」 ろっ骨の下のあたりを軽く抑えるアキラ。 「ッ…」 抑えられズキッと痛みが走る。

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