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第58話

「折れてはないけど、深いな…」 そう言ってアキラは持ってきていた袋を探っている。 気になって聞いてみるみずき。 「それは?」 「湿布みたいなモン」 「シップ?」 「あぁ、ケガしてるかなって思って持ってきてたんだ、結構痛みひくぜ……」 そう言いアキラは湿布を小さく切って打撲跡に貼って医療テープで止めていく。 さすがに手際よいアキラ。 「はい、出来た。本当は病院行ってもらいたいんだけどな……」 「…すまない」 服を着ながら言う。 「違う違う!ありがとうだろ」 そう軽く笑う。 「あぁ、ありがとう…」 顔を伏せ言葉にする。 そして、立ち上がるみずき。 手当をしても痛みはすぐにはひかない。 痛みを我慢して動き出す。 「おい、どこに行くんだよ」 出かける様な行動にアキラは、声をかけてしまう。 「……仕事」 「!?」 「もう、時間がないから……」 「っバカかよ、ムリだ、その身体じゃ!立ちっぱなしの仕事なんだろ」 呆れてしまうアキラ。 「大丈夫だ…こう言う事にも慣れている…」 「慣れてるじゃないッ顔みりゃわかるんだよ、知識があるから…」 「なにが…」 「脂汗に、顔面蒼白…、さっき、頭打った時に脳震盪おこしてたんだよ!」 強く言いきかす。 みずきは瞳を合わせずそれを聞いている。 「意識消失を伴う場合、普通は一週間ぐらい安静にしてなきゃならないんだ、それなのに、SEXや暴行を受けて休みもせず働きにいく……そんな生活に慣れてるんだったら、お前の身体はボロボロだ!」 怒りぎみにみずきに言う。 「煩い…」 俯いたまま、威圧的な言葉に反発するように… みずきはボソっと呟く。 アキラは気付かず、勢いのまま続ける。 「こうして立ってるだけでも負担になるんだ!休めよっオレがしてやれる事だって限界があるんだからなッ!」 そこまで言い言葉を切るアキラ。 みずきは…… 「ッうるさいっ!やめろ、だったら俺の事はほっておけばいいだろッ医学の知識があるからと言ってすべてが当たっている訳じゃない!」 「!!」 「これ以上お前の言動に惑わされるのはごめんだ!出ていけ!」 みずきはアキラの瞳が見れず、ぐっと拳を握りしめる。 ……ちがう…… 言いたいのはこんな事じゃない…。 心とは裏はらに、次々と出てしまったコトバ……。 ……俺は、なんで……。 胸が苦しくなるみずき…。 「あぁ!そうかよッわかったよ!もう、二度と来ねぇッ!!」 アキラも、そこまで言われてカッとなる。 床にタオルを叩きつけ、みずきの家から出ていく。 一人残されるみずき…。 「っ…ッぅ」 涙があふれてくる…足が崩れうずくまる…。 「ちが、うッ…ちがうんだ…っ」 ……後悔…… どうして……俺は…っ もう、取り返しがつかない……。 みずきは、床に転がっている白いタオルをつかみ……握りしめる。 「…ちがうッ、っ…」 むなしく言葉が何度も響く…… 突き放しては後悔の繰り返し…。 こんなこと… あいつには…やっぱり知られたくなくて… どう接していいか分からなかった… 早くあいつの前から消えたかっただけ… ただそれだけだったのに…。 無理矢理にでも、そのタオルで瞳から流れ落ちる雫を押しとめる…。 再び立ち上がり。 ……苦しく重い気持ちを振りはらうように、仕事先へ向かう。 ……もう、何も考えたくない。 金があればそれでいい、救いなんていらない。 優しさなんていらない。 なにもいらない。 何度も、何度も自分に言い聞かせるみずき。 ……何度も……。 『無理するなよ…』 頭の中で響く声…。 無視したい…。 この声の主が自分から遠ざかってしまった事で、これほどショックを受けるなんて……。 その真実を隠すように、レジに立つみずき…。 手当してもらった傷が、心の奥で痛む。 仕事に熱中することで、忘れているつもりになるみずきだった……。 《束縛の鎖》終

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