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第59話《束縛と想い》
小雨がパラつく日曜日の朝。
アキラはルードの見送りをうけながら、BOUS事務所へ仕事のために出かけて行く。
「じゃ、行ってくる。ルード」
「うん、行ってらっしゃい。みずきによろしくね」
わざとらしく言うルード。
アキラは無言だ。
タクシーに乗りこんで…
ふぅ、と溜息。
恐ろしく気が重い…。
仕事内容がどうのとかではない。
今日の相手がユウ(みずき)だからだ。
あいつとは、あれから会ってないし、会いたいとも思わないけど…。
仕事だからと割りきるしかない。
どーもアイツは苦手なんだよなぁ、あの大人しい性格、それなのに急にキツイこといいまくるし、心配してやったのに医学の事言われた時が一番腹が立った!
てめーに言われたかねぇつーの!!
思い出して一人、頭にくるアキラ。
……確かに、ユウは精神的にキツイ状況にある。
でも、オレがどうこうできる事じゃないんだ。
そんな中途半端に関わるより、何もしない方がいい。
勝手に納得しているアキラ。
ようやく店についたアキラ、店の中へと入る。
1Fスポーツ用品店のレジを守っているのは今日も社長だ。
「いらっしゃい、サクちゃん。はい」
IDカードを渡しながら愛想よく声をかけてくる。
「ちわッス…」
「どうしたんだい?元気ないがね、そういえば、ユウちゃんまだ来てないんよ、サクちゃんの次はユウちゃんか…困るがね」
社長はやれやれ、と息をつく。
社員の管理も大変そうだよな…マトモじゃない奴らの集まりなんだから…。
心で、密かに思う。
「……」
それにしても、ユウの奴、何考えてんだ。
来ないつもりか?
罰撮影……
オレの見て恐さは充分わかってるハズだからな……。
まぁ、金に困ってるんだ、来ないワケないか…。
そう思いつつ、IDカードを通して撮影所のあるBOUSへと入る。
「お、今日は誰もいねぇ」
ラッキーと、ミーティングルームへ…
すぐ先が目的地と言うところで、最悪な人物にバッタリ出会う。
「あッ!」
「げっ、ヨシ!!」
「サクヤ!なんだぁ?ヤメるんじゃなかったのか?」
「うるさいっ」
「罰撮影見たぜ、イイきみ~っ」
「ふざけんなッ」
からかい笑うヨシをキッと睨みつける。
「あー恐~。カルシュウム足りねぇんじゃねーの?」
「黙れッオレはまだ、工場跡でのコト許してねぇからなッ!」
「ははっルードってイイよなッ、俺も欲しいぜ」
わざとらしく言ってみるヨシ…
「てめッ二度とルードに関わるな!!」
「さぁ、どうかな?」
にやっと笑うヨシに、カッと頭に血がのぼるアキラ。
「なにッ」
「よっと、サクヤ、今日誰と撮影?」
アキラを無視して、アキラが持っていた撮影予定表を奪ってかってに見ている。
「な、返せッ!」
「なんだ、ユウか、ラッキーじゃん、ユウは受も攻もプロだからなぁ」
「ムカツクなぁ!嫌みだぜ、オマエ!」
「ハンッ、そうだよなぁユウが攻に決まってるよな、チビ」
「るっせぇ!」
「だってよォ、お前もう16だろ?俺その頃には、攻の仕事の方が多かったぜ、けけっ」
おおいにバカにするヨシ。
「……っ」
「チビはソンだな!悔しかったら背追いこしてみろよ!まぁムリだろうけど……」
「バカにするなッ!返せッ!」
予定表を取り返そうと手を伸ばすアキラ。
「おっと!」
それを軽がる避けて、代わりにアキラの胸ぐらを掴むヨシ。
「くっ!」
抵抗しても力では勝てない。
「無理だよ!金持ちのおぼっちゃんじゃ、オレには勝てねぇ!」
胸ぐらを掴んだまま、アキラを持ち上げる。
「オマエは気にいらねぇ!!」
「くッ…」
(苦しいッ)
首が絞まって息ができないアキラ…。
「やめろ!」
フッと横から、ヨシの腕を掴み厳しい声で制する。
「なんだよ、ユウ、ほっとけよ」
後から来たみずきだった。
ヨシが軽く言うが…
それでも睨んだまま動かないみずき。
「……」
「ふん!」
ぱっと、手を放すヨシ。
アキラはそのまま床の上へと体勢を崩す。
ヨシは、覚えてろよ…と残して消えていった。
「…こほっ…はぁはぁ」
首のあたりを触りながら咳こんでいるアキラ。
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