59 / 82

第59話《束縛と想い》

小雨がパラつく日曜日の朝。 アキラはルードの見送りをうけながら、BOUS事務所へ仕事のために出かけて行く。 「じゃ、行ってくる。ルード」 「うん、行ってらっしゃい。みずきによろしくね」 わざとらしく言うルード。 アキラは無言だ。 タクシーに乗りこんで… ふぅ、と溜息。 恐ろしく気が重い…。 仕事内容がどうのとかではない。 今日の相手がユウ(みずき)だからだ。 あいつとは、あれから会ってないし、会いたいとも思わないけど…。 仕事だからと割りきるしかない。 どーもアイツは苦手なんだよなぁ、あの大人しい性格、それなのに急にキツイこといいまくるし、心配してやったのに医学の事言われた時が一番腹が立った! てめーに言われたかねぇつーの!! 思い出して一人、頭にくるアキラ。 ……確かに、ユウは精神的にキツイ状況にある。 でも、オレがどうこうできる事じゃないんだ。 そんな中途半端に関わるより、何もしない方がいい。 勝手に納得しているアキラ。 ようやく店についたアキラ、店の中へと入る。 1Fスポーツ用品店のレジを守っているのは今日も社長だ。 「いらっしゃい、サクちゃん。はい」 IDカードを渡しながら愛想よく声をかけてくる。 「ちわッス…」 「どうしたんだい?元気ないがね、そういえば、ユウちゃんまだ来てないんよ、サクちゃんの次はユウちゃんか…困るがね」 社長はやれやれ、と息をつく。 社員の管理も大変そうだよな…マトモじゃない奴らの集まりなんだから…。 心で、密かに思う。 「……」 それにしても、ユウの奴、何考えてんだ。 来ないつもりか? 罰撮影…… オレの見て恐さは充分わかってるハズだからな……。 まぁ、金に困ってるんだ、来ないワケないか…。 そう思いつつ、IDカードを通して撮影所のあるBOUSへと入る。 「お、今日は誰もいねぇ」 ラッキーと、ミーティングルームへ… すぐ先が目的地と言うところで、最悪な人物にバッタリ出会う。 「あッ!」 「げっ、ヨシ!!」 「サクヤ!なんだぁ?ヤメるんじゃなかったのか?」 「うるさいっ」 「罰撮影見たぜ、イイきみ~っ」 「ふざけんなッ」 からかい笑うヨシをキッと睨みつける。 「あー恐~。カルシュウム足りねぇんじゃねーの?」 「黙れッオレはまだ、工場跡でのコト許してねぇからなッ!」 「ははっルードってイイよなッ、俺も欲しいぜ」 わざとらしく言ってみるヨシ… 「てめッ二度とルードに関わるな!!」 「さぁ、どうかな?」 にやっと笑うヨシに、カッと頭に血がのぼるアキラ。 「なにッ」 「よっと、サクヤ、今日誰と撮影?」 アキラを無視して、アキラが持っていた撮影予定表を奪ってかってに見ている。 「な、返せッ!」 「なんだ、ユウか、ラッキーじゃん、ユウは受も攻もプロだからなぁ」 「ムカツクなぁ!嫌みだぜ、オマエ!」 「ハンッ、そうだよなぁユウが攻に決まってるよな、チビ」 「るっせぇ!」 「だってよォ、お前もう16だろ?俺その頃には、攻の仕事の方が多かったぜ、けけっ」 おおいにバカにするヨシ。 「……っ」 「チビはソンだな!悔しかったら背追いこしてみろよ!まぁムリだろうけど……」 「バカにするなッ!返せッ!」 予定表を取り返そうと手を伸ばすアキラ。 「おっと!」 それを軽がる避けて、代わりにアキラの胸ぐらを掴むヨシ。 「くっ!」 抵抗しても力では勝てない。 「無理だよ!金持ちのおぼっちゃんじゃ、オレには勝てねぇ!」 胸ぐらを掴んだまま、アキラを持ち上げる。 「オマエは気にいらねぇ!!」 「くッ…」 (苦しいッ) 首が絞まって息ができないアキラ…。 「やめろ!」 フッと横から、ヨシの腕を掴み厳しい声で制する。 「なんだよ、ユウ、ほっとけよ」 後から来たみずきだった。 ヨシが軽く言うが… それでも睨んだまま動かないみずき。 「……」 「ふん!」 ぱっと、手を放すヨシ。 アキラはそのまま床の上へと体勢を崩す。 ヨシは、覚えてろよ…と残して消えていった。 「…こほっ…はぁはぁ」 首のあたりを触りながら咳こんでいるアキラ。

ともだちにシェアしよう!