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第60話
「…大丈夫か?」
みずきは声をかけ手をのばすが……
「いい、一人で立てる…」
その手を避けながら立ちあがるアキラ。
「……」
「助けてくれたのには礼を言う」
それだけ言い、みずきの顔も見ず、ミーティングルームへと入る。
みずきは、その場に立ちつくしてしまう……。
……完全に、嫌われたな…。
あたり前か、自業自得か…、それでも…嫌われたくない?
頭を軽く横に振るみずき……。
……いや、もういいんだ。
あいつは同業者…。
ただ、……それだけ。
溢れ出しそうな本心を抑えこむ。
それでいい、本当の気持ちは言っても伝わらない…。
長い間、父親に跳ね除けられ、諦めてしまうコトが一番楽になってしまって……。
戦うことから逃げてしまう……。
情けないと分かっていても、すべてを諦めて……。
立ちつくしていたみずきも、ようやく重い足を動かし、アキラの居る部屋へと動きだす。
部屋に入ると……。
「お!遅かったねユウちゃん、ハイ台本。すぐ読んでね」
声をかけてきたのは、撮影助手兼監督のトオルだ。
「はい」
「スタジオは4階だから、準備はまかせてね!サクちゃんと読んでて」
一緒にいたルキも声をかけてくる。
「わかりました…」
「大丈夫?ユウちゃん、顔色悪いよ?」
ルキは、ユウの様子を見て聞いている。
「大丈夫です」
短く頷いて、返事するみずき。
「無理しないようにね」
ルキは気遣って言葉を足す。
「はい…」
答えて、一番奥の席で台本を読んでいるアキラに目をやる。
アキラとの撮影。
今まで以上に辛い……。
ため息を一つついて、振りきるようにアキラの元へ足を運ぶみずき……。
先に台本を読んでいたアキラ。
みずきが近づいて来たのに気づいて顔を上げる。
「……よろしく」
アキラは短く言い、目線を台本へと落とす。
「あぁ、よろしく…」
ぎこちなく言葉を返してみずきも台本に目を通す。
また……、強姦の話。
分かっていても……。
二人は言葉数少なく台本のチェックを終え、細部を撮影監督に聞いている。
今日も監督はトオル……。
「この位置までくる。ココはカメラ固定撮りだから、間違えないように」
『はい』
ふたりは、先輩の言葉に返事を返す。
「最終的には、ユウちゃん半裸、サクちゃん全裸になるように…」
確かめるように聞いて続けて…
「今回の撮りは、初め、下着の上からヤってくださいね……」
「えーッ!嫌ッスよ!メチャ痛いんスよ~っ!!」
さらっと言う監督に、アキラは反対の声を上げるが……。
「知ってるよ、みんな、でも撮り方は変えないから……」
「はぁ…」
溜息をつくアキラ…。
浮かない顔のアキラに先輩たちは、言葉をかけてくる。
「サクちゃん、痛いのはサクちゃんだけじゃないんだからさ…ユウちゃんだってだよ」
「大丈夫!ユウちゃんが相手なんだから」
お気楽に声をかけられ脱力する。
まぁ、ユウは攻も長いし、センパイたちに信頼されてるからな…万年受オトコのオレとは違うよなぁ…。
ルキセンパイみたいにハタチまで受だけって人もいるんだし…
オレもそうなんだろうな…。
ま、イイけど。オレにはルードだけで……。
アキラは心の中で思いながら…先輩を見る。
「二人とも、分かったら休憩してリハ行くからね」
強引に話を終わらせるトオル監督。
『はい…』
しぶしぶ頷くアキラ。
チラっとみずきを見てアキラは…
「ホント…お前との撮影はこんなのばっかりだよなぁ…」
溜息まじりに吐き出す言葉。
何も答えられないみずきだった。
かなり時間はかかったが、なんとか無事リハーサルが終わり、いよいよ本番。
撮影は順調に進み、一番大切な内容を残すのみだ。
「じゃぁ、位置に気をつけて、一発OK目指していこうか?」
「ムリムリ…」
外野のセンパイたちがトオル監督の言葉にツッコミを入れている。
「はい、じゃいくよ!シーン2、010本番スタート!」
トオル先輩のかけ声で、スタジオ内は静まり返る。
「うぅ…嫌だッ、放して!ユウッ」
ユウはサクヤを壁に後ろから抑えつけ片手の自由をも奪う。
そして、サクヤの身体へ乱暴に触れ、首すじを舌でなぞる……。
「ぁッ嫌……っ」
「……」
抵抗するサクヤを軽々あしらう。
「カット!サクちゃん…全然声でてない!最初っからコケないで」
まだトオルはやれやれと言う感じで怒ってないが、何回もNG出したり、アホなミスしたらかなりキツイ言葉がとんでくる。
今回は、ユウのセリフがひとつもないので、サクヤが声を出さなくてはいけないのだ。
ユウは、セリフがない分、表情や仕種で演技しないとならないので、かなり難しい…。
けれど、演技上手なユウならワケないのだ…普段なら…。
「じゃ!最初からスタート!!」
すぐに開始される。
「ぅっいや、嫌ッやめてっ」
後ろから抑えつけられながらも、逃げようともがくサクヤ。
「……っ!」
さらに抑えつけ、サクヤのズボンをずらし、下着の上から触れて…なぞっていく。
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