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第66話

アキラの言葉に、近くで見ていたセンパイが手を貸してくれ、軽々みずきを抱きあげ、下へ降りる。 「僕らも行こうか?」 ルキセンパイが声をかけてくる。 「いえ、すみませんが、ここ、アト頼みます…」 「わかった。でも、連絡してね!」 「はい」 答えてアキラも下へ降りていく。 それを、外野から見ていた後輩たちは…。 「サクヤ先輩って医者の息子なんだろー?」 「それであんなにテキパキ?」 「でも、どうしたんだろうね、ユウ先輩は…」 「もしかして、エイズとかだったりして…」 「やめろよ、シャレになんないだろー」 みずきたちの話題に花をさかせる後輩。 「さっ!後は僕が片付けるから、フロア行ってなさい」 話を打ち消して退散させるルキ。 吐血のあと、考えるだけで恐ろしい…。 「ルキ?大丈夫?あと片付けとくから、ルキも向こう行ってて」 気分悪そうにしていたルキにトオルが話かける。 「ううん、何かしてないと恐いから…」 ルキは首をふりながら答える。 「ユウちゃん、今日顔色、悪かったからね…」 「大、丈夫かな…」 「大丈夫、あのコたちにまかせておけば…大丈夫、必死に助けようとしてたから…」 トオルはルキを手伝いながら言い聞かせる。 一方、みずきとアキラを乗せ車を走らせるヨシ。 「おい!ユウは大丈夫なのか?サクヤ!」 後ろが気になって仕方がないヨシ。 アキラはみずきの様子をみつつ、ケータイ電話で受入てくれる病院を探す。 「あ、はい。わかりました」 「病院はッ?」 「大学病院はダメだ…」 「じゃどこ行きゃいーんだよ!」 「ちょうど急患多くて、処置室あいてないらしい…」 「な…じゃ、お前の親父のやってる楠総合病院は!?親子なんだからなんとかなるんじゃ…」 「無理だよ、親子なんて関係ない。それにそこに連れて行ったらユウは助からない…」 アキラの言い方に疑問を持ち、ヨシは… 「なんだよそれ」 つい後ろを振り向いてしまう。 「前向いて運転してろ!そこ右に曲がって、しばらくまっすぐ行って、知り合いの病院に行く、親父の所へは連れて行かない!」 ガンとして言うアキラ。 親父の治し方はハズれてる…人間として、その場の治療は良くても一生薬を止めれない身体にして、金を儲けようとする。 そんなのは本当の医療じゃない!! 自分の父親がそんな風なのは、プライドがキズつけられた…オレの父親がけんじさんだったらどんなに良かったか……。 「うッ…」 小さく呻き意識を戻しかける。 「みずき!しっかりしろ、みずきっ!」 あえて本名で呼ぶ。 目がかすんで…はっきりしないが、入ってくる声は…。 「ア…キラ…」 ドクッと心臓を殴られたように思える…。 「わかるか?大丈夫だからな」 すかさず言葉をかけるアキラ。 アキラの声……。 呼ばれているのは分かるが、何を言っているのかは分からない…また意識がゆらぐ…。 「しっかりしろ!」 アキラはみずきの右手を掴む。 「気がついたのか?」 ヨシが聞いてくる。 「あぁ、でもまだ…病院に連絡しねーと…」 また携帯電話で病院へとかける。 『はい、楠小児救急です』 「すみません、健次さん…楠木院長出してください。急用なんです!」 『あ、はい。どちらさまですか?』 「甥の楠木あきらです」 しばらくして… 『はい、どうしました?アキラ』 「けんじさん、今、急患入れられる?ここに、30ml以上吐血した患者いて…救急じゃないから大学病院はねられたんだ…」 「それは大変ですね。今どのあたりですか?」 「あと5分でそっちにつく」 「わかりました。受入ましょう。わかる範囲で状況報告してください。準備します」 「ありがとう。19才男性、コーヒー残サ混じりの吐血から10数分で顔色不良、肢シ冷感軽度…痙攣チアノーゼナシ、血液型は…」 アキラのよく解らない言葉を聞いていたヨシだが最後の言葉には反応する。 「ユウはA型だ!」 「確かか?」 「あぁ!健康診断表に書いてあった!」 「A型だそうです…なぜか、意識レベルが低いんだけど…けんじさん、たぶん、消化性の潰瘍だと思う…」 「えぇ、解りましたよ」 健次はやさしく言い、いったん電話を切る。 病院にはすぐに着いた。 「楠小児救急センター?」 ヨシは見えた看板に「え?」となる。 父親の病院には行かないんじゃないのか? 「叔父さんの病院なんだ…」 そう言って車から降りる。 何人か院外にでて待っていた。 みずきを引き継ぐカタチで任せ、アキラは後からついていく。 「あの子、友達?」 処置に入る前に健次は何げにアキラに聞く。 「はい、健次さん頼みます!」 迷いなくこたえるアキラ。 「大丈夫ですよ、いい状況判断だった…」 すっと笑って入って行く健次医師。 アキラもつられて笑顔になる。 「オイ…どうなんだよ、ユウの容態は、なんであんなに血ィ吐くんだ?」 心配したヨシが聞いてくる。 「吐血する原因は大きく分けてふたつ考えられる…ひとつは末期か中期のガンの場合」 「えッ!!」 ヨシの目が見開かれる。 続けて説明しているアキラ。 「もうひとつは、消化性潰瘍が原因の場合…」 「ガンって…しょうかセイ…??」 頭が混乱してくるヨシ。 「潰瘍だよ、別に難しい病気じゃない…でも、癌は…」 「やめろッ!言うな…言うなよ…」 イスに座り込み頭をかかえる。 父親の癌告知を受けた時の事が、よみがえりゾクッとする。 「大丈夫、様子からして99%違う、ガンじゃない…」 ポツリと呟くアキラ。 そのうち看護師らしき人が声をかけてくる。 「あの、ご家族の方ですか?」 「いえ…」 頭を横に振るアキラ。

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