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第67話
「ご家族の連絡先、おわかりですか?」
質問を変えて聞いてくる看護師。
「…いえ」
もう一度首を振るアキラ。
確か、近くにいるのは父親だけのはず…。
すぐに伝えない方がいい…。
「家族とかっているのか?」
ヨシが聞いている。
「はい、緊急手術などの時に、同意が必要ですが…」
短絡的に言う看護師。
続けて、困ったように言う。
「そうですか…では、解る範囲でいいので、カルテ記入お願いします」
アキラに渡す。
「ホイ、お前の方が付き合い長いんだから分かるだろ?」
アキラはヨシに渡しながら言う。
看護師はすぐ出ていった。
「え!わかんねーよ、俺が知ってるのはプロフィールデータと暴力親父がいるってコトだけだし、住所とか知らねぇ…」
「マジ?わかんねぇ奴、聞かなかったのか?」
アキラは呆れたようにヨシに聞く。
「だってよぉ、聞きづらいんだもんよぉ…ユウは…」
子供のような口調のヨシをほっておいて、アキラはカルテに書きこんでいく。
みずきの住所を書きこんでいると、そばで見ていたヨシがポツリ。
「……え、そこって、サクヤの家のすぐ近くじゃねぇか!」
「あ?なんでお前がオレの家、知ってんだよ!」
「え、あぁ、タツが言いふらしてたんだよ、皆知ってるぜ」
「ッあのヤロウッ!」
アキラは持っていたペンを、強く握る。
(自宅は教えないのが決まりだろッタツの奴…!)
怒りながらも、記入し終えてカルテを持って行こうとするアキラ。
その様子を見て、なぜか引き止めるヨシ。
「サクヤ!」
呼ぶが、それを聞いてアキラはツカツカと寄って来て…
「北上!…頼むから、外ではネームで呼ぶな!お前とか、アキラでいいから!少しは考えろよっ」
そう怒って出て行ってしまう。
「……」
黙って待つヨシヤス。
……本名か。
……鈴鹿、みずき。
8年間一緒に仕事をしてきたのに…ほとんど呼んだコトがなかった。
でも、そうだな…ここは、BOUSじゃないから……。
「……みずき」
助かって欲しい、悪くならないで欲しい…自分を置いていかないで欲しい…。
それだけをその言葉に詰めこむヨシヤス。
そこへ、処置室から出てきた、健次先生が…
「あれ?アキラはいないのですか?」
ヨシに近づきながら静かに聞く。
「せッ先生!ユ…みずきは!?大丈夫なんですか!」
聞かずにはいられないヨシ。
「大丈夫ですよ、落ち着きました」
やさしい声とニコっと笑顔で言う健次先生。
「よかった…」
その顔で一気に安心するヨシヤス。
アキラも戻ってきて容体を聞く。
「アキラ、こちらは?」
ヨシを見つつ聞いてくる健次。
「あぁ、みずきのダチの北上由里って言うんだ」
「そうですか、よろしくお願いしますね」
のんびりした健次の言い方に、すっかり毒気を抜かれてしまうヨシ。
「あ、はぁ…」
「ではこちらへ、鈴鹿さんのご家族の所在が解らないので、二人に容体を説明しますね」
優しく言い二人を呼ぶ健次。
「とりあえず、胃洗浄して内部を検査した結果…」
写真のようなものを二枚並べる。
「あ……」
それを見てアキラは声を出す。
「なんだよ?」
ヨシはいぶかしく言うが…。
「わかるかい?言ってごらん…」
健次はやさしくアキラを促す。
「たぶん…ここが出血点で、…もしかしたら、ここも潰瘍が出来かけなんじゃ…」
写真を指しながら自信なさげに言うアキラ。
「すばらしいよ、アキラ。こちらの大きな潰瘍に気をとられ見逃しやすい初期の潰瘍を見分けられるとはね」
そう、健次に褒められ…
「いえ」
恥ずかしがるように頭を下げるアキラ。
ヨシはそんなアキラの姿を見て驚く。
健次はアキラにやさしく笑いかけながら…。
「かなり勉強したんだね、大学レベルだよ、自信持っていいからね」
そう静かに言う。
「はい、ありがとうございます」
嬉しそうにするアキラ…。
別の顔を見た気になるヨシ…。
「さて、潰瘍としては深いものですが、鈴鹿さんはまだ若いですし、治療に時間はそうかかりませんよ」
話を戻して説明している健次。
ヨシは、ポツリと言葉をはさむ。
「あの、それでみずきは結局なんの病気だったんスか?」
一人理解していないヨシ。
「アホか、お前。胃潰瘍だよ!胃潰瘍!」
「アキラ、すみません解りにくかったですね」
アキラをそっと止めながらヨシに謝る健次。
「あ、いえ」
アキラの言い方にムッとしたが、健次のフォローで落ち着く。
健次はもう一度病名などをヨシに教える。
「さ、鈴鹿さんに面会してあげてください。もう処置室から一般病棟に移っていますよ」
「はい」
返事をして、案内する健次に二人はついて行く。
健次は途中まで送ってくれ、仕事に戻っていった。
「今、薬で眠っていますが、一時間もすれば意識も戻りますよ…」
病室まで着いてきていた看護師はそう伝えてくる。
「はい、すみませんが転院は考えず、この個室に入院させてください」
アキラが答えて続けて頼む。
ここは小児救急病院だから…
「はぁ…、分かりました、お伝えしておきます」
「治療費とかもオレが持ちますから、本人には言わないでください」
そう付け足すアキラ。
アキラの言葉を聞いて、ヨシは…。
「何言ってんだ!俺だって出すぜ、お前だけに出さすわけにはいかねぇ!こいつだって黙ってねえよ!」
静かに眠っているみずきを見て言う。
「確かにそうだろうけど、でも…お前の嫌いな金持ちも役に立つ事があるんだから、出させてもらうよ。みずきにはかりもあるし…」
「借り…?」
聞き返すヨシを無視してアキラは…
「すみません、入院手続用紙をいただけますか?」
「あ、はい」
そう答えてナースセンターへ帰って行く看護師。
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