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第70話
「まだ治療らしい治療はおこなっていないのですよ?一週間集中治療すれば体調は完全によくなります」
「……」
「そんなに仕事が心配ならオレが代わりに行ってやるよ…夜間ならなんとかなるし…」
アキラが急に話だす。
「そーだぜ!昼は俺行ってやるよ、今大学少し余裕あるし…」
ヨシも言葉を出す。
「ダメだ!お前たちに迷惑はかけられない…」
みずきは断るが…
「でも、そーしないとクビになるんだろ」
ルードがつっこむ。
「……」
困って黙ってしまうみずき。
「とりあえず職場に後から連絡してみろよ、病気って言えば普通大丈夫だろ?」
ヨシが言葉を出す。
「……」
「心配はいりませんよ。治療は簡単に出来るだけ早く済ませますから、みなさんの気持ちを裏切らないように、治して退院しましょう」
やさしく言う健次。
「……」
その笑顔に押され頷いてしまうみずき。
健次はそのまま次の患者の所へと出て行った。
すっと健次の後ついて出て行こうとするアキラ。
入院書類を書こうと言うのが建前…。
本当は長くみずきの前へ居たくないのだ…泣かすほどの事を言ってしまって居づらい。
でも、みずきだってキツイ事オレに言ったんだからな…おあいこだ!
2つの借りは入院費で返して、even!これでいい。
去っていくアキラの背中を見つめてしまうみずき。
……遠くなる。
「アキラ?どこ行くんだよ」
ルードが気付いて声をかける。
「あぁ、書類書いてくる…」
「ふーん」
「もう消灯してんだから静かにな!話、手短にしろよ」
アキラは、そう言って行こうとする。
「あぁ」
ヨシが頷く。
そのすぐ後にみずきが…
「アキラ!」
呼びとめる。
声に反応してピタと止まり…
「何?」
首だけ向けるアキラ。
「お前に入院費を出さすわけにはいかない」
そう言うみずき…。
「いいや、払わせてもらうよ、じゃねぇとオレがスッキリしねぇ、借りはかえさないと…」
アキラは答え、前を向く。
「何の借りだ?」
真剣に聞くみずきに、アキラはふぅと息をつき…
「こいつから二回も助けてくれただろ!」
くるっと振り返りヨシを指し言う。
「その借りだよ」
そう付け足して、今度こそ部屋から消えるアキラ。
「なっ!」
「……」
ヨシは俺かぁ?と言う感じで驚く。
「って…ヨシ!アキラに何かしたのか?助けたって…」
ルードがヨシヤスを問いつめる。
「う…イヤ、俺は…」
しどろもどろ…。
「ダメだろ!ヨシッ今度アキラいじめたら嫌いになるからな!マジでっ」
本気で怒る。
「えぇ!なんでっ!だってよぉ、俺、奴の事どーしても気に入らねぇんだよ、ツンケンしたもの言いとか…」
「さっきも言ったろ!アキラは悪い奴じゃないって、見てたら分かるだろ!」
真剣なルード。
ルードは続けて、少し口調を和らげて言う。
「……おれ、みんな仲よくしてもらいたいのに…」
それを見ておずおずヨシが答える。
「う、分かったよ…ルード、もうアキラに悪い事はしねぇ、と思う…でもなぁ」
嫌いなもんは嫌い…言い詰まるヨシ。
そこへ…。
「おい、もう出ろ、消灯してるから迷惑になる、明日にしろよ」
急なアキラの声に、少しびっくりする3人。
病室に顔を覗かせ…
「ん?どうした?」
首をかしげて聞くアキラ。
「あ…わかった!すぐ出る」
気を取り直して答えるルード。
「そう、みずきは、ここから勝手に抜け出したりすんなよ!細かい事は考えなくてもいいから、わかったな!」
そうアキラはみずきに声をかけて、向こうにまた行ってしまった。
「……あぁ」
呟くように頷くみずき。
「んじゃ帰るからな、また来るけど…おとなしく身体治してろよ」
ヨシが声かける。
続いてルードも。
「また明日くるよ!着替えとか必要なもの持って来てあげるから、鍵ちょうだい」
「あぁ、ありがとう…」
「だから心配させるような行動とるなよ!みずき」
「…わかった」
みずきの答えを聞き、笑顔になるルード。
鍵を預かる。
「じゃな!」
手を振りながら病室を出て、今日は帰る三人。
時刻は夜十一時過ぎていた。
《束縛と願い》終
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