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第71話《束縛からの解放》
平日の夕方…学校帰りのアキラ。
みずきは仕事の休みも取れ、あれから大人しく治療を受けているらしい…とルードから聞く。
今日もルードはお見舞いに病院まで行っている。
オレは…あれから会いには行ってない。
ルードから様子は聞けるし、わざわざオレが会いにいってやることもない…と言うけど、本当は会いづらいだけ…。
先の事考えると、気まずいのは良くないよな…。
そんな事を考えながら自宅へ向い帰る。
アキラは何気なくみずきのアパートの前を見ながら通っていると、家の前に長身の男が、たたずんでいる。
「あれは…みずきの…」
アキラは気になって、男に近づいていく……。
「…なぁ、あんた。鈴鹿みずきの親父だろ…?」
そっと声をかけてみる。
「…お前はなんだ!?みずきは、みずきを知っているのか…!?」
掴みかかるような勢いで、聞いてくる父親。
「…みずきは入院したよ」
静かに伝えるアキラ。
「っ!!?」
アキラの言葉を聞いて、顔色を変えるみずきの父親。
「なっ!なぜ?事故か?病気か?どうしているんだ!教えてくれッ!」
慌てて聞いてくる父親。
不安そうな心配そうな…普通の父親の顔だ…。
あの日とは別人のような…。
「それは…あんたに教える事は出来ない。…みずきは、親父の暴力のせいで病気になったんだ」
「……!?…俺が?」
「心あたりあるだろ…」
アキラが言うと父親は無言になる。
止まってしまっているみずきの父親…鈴鹿直樹。
アキラは、続けて……。
「あんたが変わらなきゃ、みずきは、この先ずっと苦しまなきゃならない!」
アキラに問いつめられ頭を抱える。
「……みずき」
「……」
「…すまない、みずき…俺のせいで…」
ぽつりと謝りの言葉を口にする直樹。
「っ、謝るくらいなら、なんで止めないんだよ!おかしいぜ、あんた!」
そんな雰囲気につい怒鳴ってしまう。
「……そう、おかしいんだ。俺は…息子に…」
以前、みずきを襲っていた時とはかなり印象が違う直樹。
「止めれないんだ…ヤクが、金がないと…俺は、イライラしておかしくなる。頭が、何も分からなくなるッ」
吐き出すようにアキラに言う。
「…あんた」
「みずきの所へ連れて行ってくれ!俺はあいつがいないとダメなんだッ頼む!頼むから!!」
アキラにすがりつき頼む直樹。
「そう、言われてもな…今すぐってわけにはいかないだろ。とにかく今日は帰れ、連絡先教えてくれよ、かならず連絡するからさ」
なだめるようにアキラは、直樹に言う。
「…あぁ、連絡、必ずくれ…頼む」
アキラに電話番号を教え、念を押すように言い帰っていく。
顔は似てないのに、雰囲気はみずきとそっくりだ。
さすが親子…。
近くで見てそう思う。
一度みずきに話さないといけないな…。
数日後、アキラは、みずきに会いに病院へと向かう。
その頃、みずきは回診に来た健次先生と話をしていた。
「鈴鹿さん、昨日は良く眠れましたか?」
優しく声をかける健次。
「はい…」
「よかったです、少し診ますね…」
「ここは…入院している子供、そんなに多くないんですね」
診察を受けながらふと気がついたことを聞いてみるみずき。
「はい、一応、救急専門の病院なので、容態が安定したら本院に転院させるんです」
「どうして?」
「うーん、まぁ、小さい病院ですし…色々あるんです。鈴鹿さんは大丈夫ですよ、アキラのお友達ですから…」
「友…達?」
その単語に反応するみずき。
「あ、違うんですか?アキラがそう言っていたんですよ」
「…いえ…」
ぽつりと答えるみずき。
健次は、スッと笑顔になり…
「よかったです。あの子には、あまり友達がいなくて心配だったんですが、仲よくしてやってくださいね」
「はぁ…」
複雑だが、一応頷くみずき。
「鈴鹿さんは、あの子の事をどう思いますか?」
不意に聞いてくる健次にドキッとするみずき…。
「えっ…」
「私はね、あの子が自分の息子のように可愛いんです。実際、アキラをとりあげたのも私ですし、小学生の頃にはよくここへ手伝いに来てくれました」
微笑みながら話す健次。
それを興味深そうに聞くみずき。
「いつも私の前では笑顔を絶やさない子でね…でも、一度だけ、アキラは私の前で大泣きした事があるんです。どうしてだと思います?」
「え…?」
急に話をふられて困るみずき。
健次は続けて…
「あれはアキラが小学3年生くらいでしたか…ご存知だと思いますが、アキラの父親、僕の兄は楠木病院本院の院長で、病院の仕事に追われ自宅には、年に数回しか帰れないんですよ……実際私もここが家のようになっていますしね」
少し苦笑いをしながら話す。
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