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第72話

「その休みのうち年に一回は家族でテーマパークに行っていたらしいんですよ。…でもアキラだけは毎年つれていってもらえなくて…」 「どうして…?」 気になり聞いてしまう。 「鈴鹿さんは、アキラが先天的な病気を持っている事を聞いていますか?」 「少しなら…身体に思うように力が入らないとか…」 みずきの答えを聞いて頷くように話だす健次。 「はい、あの子は病気の影響で、普通より体力もないんです…だから、遊園地など行っても疲れやすくて最後まで体力がもたないんです。だから兄は邪魔になるアキラをいつも置いて行ってました」 少し悲しそうに話す。 「…アキラも行きたかったのでしょう。兄に自分も連れて行ってほしいと頼んだそうです、それであまりに言うもので、兄は条件を出したんです。『今期の成績がすべてA評価なら考えてやる』と…」 健次は溜息をつき話す。 その話に聞きいるみずき。 「…兄は、初めからアキラを連れて行く気などなかったんです。障害をもつアキラが、体育で良い評価をとれるわけがない…そう考えたんですよ」 「……そんな」 「でも、アキラはその言葉を信じて…がんばって、本当にオールA評価をとってきたんです」 「え…」 「……アキラが、体育で良い成績をとることが…どれだけ大変だったか…嬉しそうに通知表を見せに来た時の事、忘れられません…でも私は、分かっていたんです。兄がアキラを裏切る事を…、それをどうしてもアキラに言えなくて、僕が兄に連れていってくれと頼んだのですが…やはり、兄は『そんな事を言った覚えはない』とそう言って終わらせてしまって…」 「……」 「……アキラは相当ショックだったのでしょう…、今でもよく覚えてます。後にも先にも、あんなに大声で泣くアキラを見たのは初めてでしたから…あの子は、我慢強い子なんです…」 頷きながら話を続ける。 「だから…足をマヒさせてまで泣くアキラをほっておけなくてね…私も、初めて仕事をさぼって、兄の代わりに遊園地に連れて行ったんです。楽しかったですよ、アキラの為に行ったのですが自分も気分転換になって…」 やさしく笑う健次。 「だから…もし遊びに行く機会があったら、アキラも誘ってやってくださいね。きっと喜びますよ。あ、すみません長々と話してしまって…」 そう苦笑いする。 「いえ、時間があればまた話してください。アキラの事をそんなに知らないので…」 健次の話でアキラの一面を知れたみずき…。 健次は笑顔になって立ち上がる。 「はい、わかりました。えっとまだ計測中なので少し安静にしていてくださいね…すぐ戻りますら」 行こうとするが思い出したように…… 「あ、それでね、さっきの話で、仕事さぼったと言ったでしょう。不思議なのですがその日はね、急患が驚くほど少なくて、病院にさほど迷惑をかけずに済んだんです。だからアキラがいればお仕事クビになるような事はないと思いますよ。では、失礼しました」 そう付け足して話し、みずきに断って病室を出る健次。 なんというか、親しみやすい、いい先生だな、と思うみずき。 健次は病室を出て、医務室に戻る。 そこへ… 「けんじさん」 声をかけてくる可愛い影。 「あ、アキラ…よく来てくれました。鈴鹿さんのお見舞いですか?」 「まぁそうなんだけど…あいつ変わりないよな…」 「はい、経過は順調ですよ」 「そう、」 アキラの顔を見て… 「アキラ?…そうだ、僕もこれからデータとりに鈴鹿さんの所へ行くんで、一緒にいきましょう」 1人では会いづらそうなアキラへ優しく笑い促す。 アキラは健次に向かい、小さく頷く。 「では、行きましょうか」 いつもの笑顔をアキラに向け、呼びかけてみずきの病室に向かう。 アキラは、健次と並んで歩くが、やはりどう言ってみずきと会おうかと考えていると……。 「どうかしましたか?アキラ…」 様子をさっしたのか、健次が声をかけてくる。 「ん、別に…たいした事ないけど…」 みずきの病室の前まできて止まるアキラ。 「アキラ?」 「けんじさん、先に用事済ましてきてよ、オレ、あいつに立て込んだ話あるから…ここで待ってる」 「そう、ですか…分かりました。少し待っていてくださいね」 健次はアキラにそれ以上聞かず、病室にノックして先に入っていく。 アキラは病室の前の壁に寄りかかり待っている。 「失礼します。データ結果みますね」 笑いながらみずきに話かける。 「けんじ先生…」 さっき出ていったばかりの人物がまた来たので少し驚くみずき。 「すみませんね、度々」 苦笑いの健次。 データに目をやる。 「いえ、その先生は、よく患者をみてまわってるみたいですが、どうしてですか?」 少し気になり聞いてみる。 「そうですね。患者の顔を直接みるのは、ひと目で機嫌や体調もわかりますし、やはり医療は医師と患者の信頼関係が大切ですからね。コミュニケーションは大事にしているんですよ」 やさしく説明してくれる健次。 「そうですね…すごいと思います」 「いえいえ、私はただ患者さんとお話するのが好きなだけかもしれませんがね」 また、優しく照れたように笑う… そんな健次の姿を見て… 「…あ…の、先生…」 ポツリと言うみずき…。 「はい、どうしました?」 落ち着いた口調で聞くが… みずきは、俯いて言い出せないでいる。 「…アキラの、事ですか?」 健次は気にかかっている事を聞いてみる。 瞳を上げるみずき。 そっと口をひらく… 「…俺、…アキラに酷い事を言って、傷つけてしまって…謝りたくても、謝れなくて…どうしたら、いいのか…」 思い出して、表情を落とし伝える… 「アキラと仲直りしたいんですか?」 ゆっくり聞いてくる。 「…はい、でも、許してもらえない…アキラを叩いてしまって…」 「……、ふふ、だ、そうですよ。アキラ…」 後ろを振りむき呼ぶように言う健次。

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