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第73話
アキラは呼ばれて静かに病室へと入る…。
瞳が合い、驚くみずき。
「あ…アキラ!」
いるはずのない人物の登場に戸惑う。
「本人に直接言うことをお勧めしますよ。大丈夫です、この子は優しいですから…」
そう言うと立ち上がり、部屋の入り口にいるアキラに、ね。と、いつもの笑顔で同意をもとめ肩を軽く2回押して病室を出ていく健次。
アキラは無言でみずきの元に歩みよる。
「……」
「あの…」
みずきがどう謝ろうかと声を出すが…
それに割って言葉を出すアキラ。
「別に…もう、気にしてねぇよ…」
無表情で言う。
「……アキラごめん、本当は、あんな事を言う気はなかったんだ…混乱して…思ってもない、すまない…」
アキラに頭を下げて、ここぞとばかりに謝るみずき。
「イイっつてんのに…」
「…それから、いろいろと有難う」
そしてちゃんと瞳を合わせる。
「…イイって、ったく、みずきらしいな…」
ふと笑顔をみせるアキラ…
それをみて少し安心するみずき。
アキラは、椅子に座って話し出す。
「お前は、身体治すのに専念しろよ… 本当バカだよな、あれだけ血ィ吐くまでいったら、相当痛みあったハズだぜ?」
「……」
答えに詰っていると…
「気付かなかったのか?そんなに身体の感覚マヒするまで、何悩んでるんだよ?」
当の本人は、そしらぬ純粋な瞳で聞いてくる。
「……」
またも答えられないみずき。
アキラに嫌われたことが一番キツかったとは言えない…
「……親父の事か?」
ふと聞いてくる。
瞳を下げるみずきを見てアキラは続けて…
「潰瘍はな…ストレスも原因のうちなんだ、それなんとかしないと、また同じ事の繰り返しだぞ…」
「…アキラ」
「お前…本当は、親父の事好きなんだろ?」
「なッ…俺は…」
ストレートに聞くアキラにみずきはハッとなる。
「だって…いくら親父でも、力で抵抗できないトシじゃないし…逃げようと思えばいくらでも方法はあったはず」
「……俺は、」
ぽつりと言いかけるみずき…だが言葉は続かない…
「…そうなんだろ?」
言い添えるように優しく聞くアキラ。
「…俺は、父さんに…まともに生きて欲しい。助けてやりたいんだ…」
噛み締めるようにアキラに伝えるみずき。
「……うん」
静かに聞く。
「昔はあんな人じゃなかった…優しくて、家族を一番に考えてくれて…今の、父さんをどうすれば救えるのか…分からないんだ」
俯いて、困惑した声で伝える。
「…みずき、助けられるよ。お前の親父…」
「……えっ」
顔を上げるみずきに、スッと微笑する。
「オレ、お前の親父に会ったんだ…」
「えっ!?」
さらに驚くみずき。
「学校帰りにお前の家の前で、入院したって言ったら心配してたぜ…びっくりするほど…」
アキラの言葉に無言になる。
「……あの様子、お前の言う優しい親父の面影あった。でも、今は薬に溺れて抜け出せなくなってんだよ…」
「……」
アキラの言う通りで、どうすれば立ち直ってくれるのか分からなくて…
「……抵抗あるかもしれないけど、確実に治したいって思うんなら…病院で専門の治療をした方がいい」
「病院…」
「オレ、病院関係詳しいから…薬物依存の治療で成果上げてる病院知ってる。まぁ入院する事になるから親父さんも説得しないといけないし、お前にも負担はかかるから…ムリヤリには言わない…」
アキラは様子を伺うようにみずきの瞳を覗き聞く。
「…どうする?」
「……」
その可愛い顔を近くに見てドキドキしてしまうみずき。
そんな場合じゃない、そう瞳をそらすが…
「おい、真剣に考えてやってんだから、目そらすなよ!」
アキラは少し怒っている。
どうやら真面目な話をしている時に目をそらされるのが嫌いらしい。
「す、すまない…俺から、父さんには話すから、ありがとう」
もう一度その整った綺麗な顔へ瞳を移す。
アキラはその答えを聞き、笑顔をみせる。
「そうだな。じゃ、オレが親父さんここへ連れてきてやるから、ちゃんと説得しろよ?」
「あぁ、でも…父さんが素直にくるかどうか…」
少し心配するみずきだが…。
「それなら心配いらないって、絶対来るから…。オレが心配なのは親父さんの態度。話が出来るかどうか、相当とり乱してると思うぜ?」
「…父さんがとり乱しているのは、いつもの事だから…」
息をつき、ぽつりと話すみずき…。
アキラは…
「お前も、親父さんの前だとガキっぽく反抗するよな?いつも大人しい分ギャップがおもしろい…」
くすくす笑って言う。
「…そうかな?」
首をかしげるみずき、確かにムキになってしまうけれど…。
「そうそう、だから気をつけろよ?ケンカにならないように」
「うん、分かってる…」
素直に答えるみずき…
こんな自分に力をかしてくれるアキラだから…
みずきは心の中で優しく想う。
アキラの近くに居ることができる喜びをかみしめて…
みずきの想いなどつゆ知らずのアキラはマイペースに立ち上がり…
ベッドに座っているみずきの頭を、くしゃと撫でて…
「じゃ、また明日な」
そう笑いかけ病室を出ていく。
それを微笑し、静かに見送るみずき。
アキラに謝る事が出来て、心につっかえていた重いものが取れたみずき…
そっと想い人が触れてくれた場所に触れてみる。
また、こうして触れてくれる…
嫌われていないから。
予熱を感じながら明日を待つみずき…
明日は、父さんを説得する。
俺に出来るだろうか…
でもアキラがくれたチャンスだから、必ず分かってもらわなくては…父さんには…
もう、以前のような生活は嫌だから…
母親の代わりなんて自分は悲しすぎるから……。
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