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第4話

高校2年生の秋。あの一件から拓海は変わった。今では一人称を俺に替え、僕以外の人と遊ぶことも増え、容姿や雰囲気の柔らかさから人気者になった拓海は、どんどん僕から自立していくように見えた。その中に女の子との遊びが含まれるようになったのは複雑だったけれど、それでも拓海が良い方向に変わるならと思っていた。 だが、それと同時に問題も起こる。 発作的に人を信じられなくなる拓海は、不安定になると決まって僕を呼び出しキスを迫った。そんな拓海を可愛いと思いつつも、このままではいけないとわかっていた。 そんな時、僕はとある女の子と付き合うことになる。 「千秋くん。今日の放課後ちょっといいかな」 この頃には2人で帰る習慣も薄れていたから、僕は不思議に思いながらも了承した。彼女は森山美穂で、1学期のとき隣の席だった女の子だ。だからといってほとんど接点はなかったけれど。 「私、千秋くんのことが好きなの。返事はまだ先でいいから、少しでもそういう風に意識してもらえると嬉しい」 だから、彼女の言葉に僕はただただ驚くしかなかった。一瞬思考が止まってそのあとに浮かんだのは、何故か幼馴染のことで。 僕に彼女ができたら、拓海の悪い癖もなくなるんじゃないだろうか……? きっと、彼を正しい道に戻せるのは自分だけだ。 そう思えば自然と口から言葉が出た。 「僕も、森山さんと話してると和むっていうか、安心するっていうか、とにかく心地よかった。だから……僕でよければ」 これはまったくの嘘ではない。彼女のことは人として好きだし、女の子と付き合ってみたいと思ったことだってある。不純な動機だと自覚しつつも、そうやって自分を納得させた。 「ほんとに……?どうしよう、すごく嬉しい!」 彼女の満面の笑みを見ながら、きっとこれが正しい選択なんだと信じ込む。 その日の夕陽はやけに赤くて、窓から差し込む光が教室中を染めた。

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