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第9話
その態度に胸がぎゅっと締め付けられる。『千秋ちゃんの言葉なら信じられる』って、前はそう言ってくれていたのに。
「なんだよ、それ」
だんだんと怒りのようなものが湧き上がる。
「興味本位で拓海に近付く女の子たちと、僕も同じだと思われてたってこと?」
自分でも驚くほど不機嫌な声が出た。彼もまずいと思ったのか、間髪入れず反論が飛んでくる。
「違うよ。千秋ちゃん以外には一番にさせてほしいなんて頼まない。思ったこともない」
でもそれは、僕の欲しい言葉じゃなかった。
「そうじゃなくて」
拓海の前髪に向かって手を伸ばす。サラリとした前髪を払って、彼の目を覗き込んだ。
「どうしたら、信じてくれるの」
もし彼の言う通りに彼女と別れたとしても、きっと拓海の気持ちは晴れない。またいつかの未来のことを考えては、一番じゃなくなることに怯えるんだろう。
「何をしたら、拓海は僕を信じてくれる?」
子供を諭すように、努めて柔らかい声色で問いた。
「言っても、いいの」
「僕にできることなら」
まるで怒られたあとの子供みたいに目を泳がせながら、彼は願いを口にする。
「千秋ちゃんの、時間をちょうだい。1日でも、半日だけでもいい。その時間だけは、僕だけの千秋ちゃんでいてほしい」
申し訳なさそうに話す彼に、そんなことかと思った。普通に呼んでくれれば、僕はいつだって拓海のもとに行くのに。
「わかった。金曜日の夜から土曜日の夕方まででもいい?」
そう問えば驚いたような顔をしたあと、嬉しそうにコクリと頷かれた。
「来週から?それとも明後日から?」
「……明後日からがいい」
時々、拓海は子供に戻ったみたいに甘えてくる。家では一人、学校では人気者。そんな生活を続けてきた彼は、きっと人に頼ることを忘れて生きてきたんだろう。そんな彼の為に自分が居るのなら、これでいいと思ってしまった。
「じゃあ、僕はそろそろ帰るね」
「うん。金曜日、約束だよ」
「大丈夫だって。忘れたりしない」
玄関の扉を開ける。冷たい風が心地いい。
「千秋ちゃん、ありがとう」
去り際、そう呟いた拓海の表情は、誰もが見惚れるような笑顔だった。
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